中国古典戯曲・小説研究の世界的先駆者の一人である、東京帝国大学名誉教授鹽谷温博士は、大正14年から財団法人啓明会よりの研究資金を得て、昭和7年夏に明の臧懋循の編になる『元曲選』(百種の元雑劇を収める)の全日本語訳を完成しておられた。『元曲選』については、その一部(早く大正3年『東亜研究』誌に「梧桐雨」「伍員吹簫」、昭和14年に私家版として『楚昭公』、昭和15年に目黒書店から刊行された『国訳 元曲選』に「漢宮秋」「殺狗勧夫」)が公刊されたばかりで、稿本のまま残されていた。
このたび、博士の令孫鹽谷健先生より、この『鹽谷温博士『元曲選』全訳稿』(21帙100册)及び翻訳の底本(商務印書館涵芬楼影印本 21帙100冊 すべてに断句、訓点を施す)の御寄贈を受けた。
『元曲選』百種の全訳は前人未踏の業績といってよく、本所では、この貴重な翻訳稿本を末永く伝えてゆくとともに、今後の研究教育に役立てて行きたいと思う。
(大木 康)
![]() 鹽谷温博士『元曲選』全訳稿と翻訳底本 | ![]() 『元曲選』全訳の一部(「漢宮秋」) |