本シンポジウムは、水谷周氏の著作『20世紀エジプト思想におけるリベラリズム再考』(I.B. Tauris社、2014年)を一つのきっかけに、現代のアラブ世界あるいは中東政治の中での「リベラリズム」の位置づけや役割について、歴史的・思想的観点から考察しようとするものであった。著者の水谷氏を迎え、長沢栄治氏の司会のもと、四人の報告者が登壇し、その後、水谷氏が講演を行った。
全体として明らかになったのは、20世紀エジプトの文脈で、「リベラリズム」と呼ばれるものの正体が、必ずしもはっきりしていないということであった。そして、そのような曖昧さゆえに「リベラリズム」は脆弱であるとも指摘された。また、本シンポジウムでは、「民主的」と「非民主的」、「イスラム主義」と「世俗主義」、あるいは「イスラム主義/イスラミズム」と「自由主義/リベラリズム」といった二項対立的なもの見方の問題点も指摘された。
質疑と応答・総合討論の中では、70名以上の参加者とともに、「自由」概念の意味や、その絶対視がもたらす問題点などに関する議論が行われた。また、アフマド・アミーン(1886-1954)とフサイン・アミーン(1932- )という親子二代の生き様や思想を鮮明に描いた同書の「大河ドラマ」的な魅力についての指摘もあった。
![]() | ![]() |
![]() | |
![]() | |
![]() | ![]() |
日時: 2015年2月20日(金) 13:30-17:30
場所: 東京大学 東洋文化研究所 3階大会議室
プログラム:
13:30~
趣旨説明・司会:長沢栄治(東京大学東洋文化研究所教授)
報告①:後藤絵美(東京大学東洋文化研究所助教)「水谷周氏の著作紹介―二人の「アミーン」の魅力」
報告②:飯塚正人(東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所教授)「近代エジプトにおける「リベラル・イスラーム」の思想と限界」
報告③:池田美佐子(名古屋商科大学教授)「エジプト立憲王制期の議会」
報告④:加藤博(一橋大学名誉教授)「イスラム教徒にとってのイスラムとは何か」
=休憩= 15:20~15:40
15:40~
講演:水谷周(日本ムスリム協会理事)「中東への日本のアプローチ―出版報告を兼ねて」
16:20~17:30
質疑と応答・総合討論
主催:
科研費基盤研究(A)「アラブ革命と中東政治の構造変容に関する基礎研究」(代表:東京大学 長沢栄治)
担当:長澤