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東文研セミナー「民俗芸能とヴァナキュラー芸能のあいだ」(科研「ヴァナキュラー概念を用いた文化研究の視座の構築―民俗学的転回のために―」)(研究代表者:菅豊)が開催されました

報告

 2023年3月11日(土)13時から東文研セミナー「民俗芸能とヴァナキュラー芸能のあいだ」が開催された。本研究会は、菅豊教授(東京大学)を研究代表とする科研プロジェクト「ヴァナキュラー概念を用いた文化研究の視座の構築―民俗学的転回のために―」の第3回研究会である。
  研究会では、まず菅豊教授(東京大学)から本研究会の趣旨説明として、本研究会で議論を進めるヴァナキュラー概念の民俗学における学術的な動向が紹介され、問題提起がなされた。
  続いて、松岡薫氏(天理大学文学部)から「俄はヴァナキュラー芸能なのか?―熊本県南阿蘇地方の俄から考える―」と題し、熊本県南阿蘇地方における俄の一回性や即興性に着目した芸能実践に関する基調発表がなされた。
  発表を受け、川田牧人氏(成城大学文芸学部)から「人はいかにしてシロウト芸人になるか」、 日比野啓氏(成蹊大学文学部)から「『新しい(民俗?)藝能』について」と題し、奄美地方の素人演芸や地域市民演劇の枠組みからは捉えきれない新しい藝能の動向について発表がなされた。
  その後、全体討論として菅教授から議論の整理と、約50人の参加者も交えた活発な質疑応答や討論が交わされた。

※本研究会はJSPS科研基盤B「ヴァナキュラー概念を用いた文化研究の視座の構築―民俗学的転回のために―」(研究課題/領域番号22H00767)の研究成果である。

当日の様子

開催情報

日時:2023年3月11日(土)13:00~

会場:オンライン開催(オンライン会議システムZoomを使用)

基調発表者:松岡薫「俄はヴァナキュラー芸能なのか?―熊本県南阿蘇地方の俄から考える―」

発表者:川田牧人(成城大学文芸学部)、日比野啓(成蹊大学文学部)

司会:菅豊(東京大学東洋文化研究所)

コーディネーター:菅豊(東京大学東洋文化研究所)、川田牧人(成城大学文芸学部)、松岡薫(天理大学文学部)

趣旨:
 いかに人々は芸能を演じるのか。これは、民俗芸能研究において、とくに1990年代以降広く共有されてきた問いであろう。しかしながら、従来の「民俗芸能」という枠組みによる研究では固定的な身体動作の習得過程が主な研究対象とされたため、演技の工夫や個人の技、上演の場で生じるアクシデントやアドリブといった予測不可能で不確定な演技の要素について十分な検討がなされてきたとは言いがたい。したがって、人々が芸能の「型」とは異なる演技を生み出す創造的なプロセスの解明は、今後の民俗的な芸能研究の課題の一つといえるだろう。
 この課題を乗り越えるため、本研究会では近年、菅豊や島村恭則らが挑戦しているヴァナキュラー文化研究の視点を取り入れたい。ヴァナキュラー文化研究では、歴史性や伝統性、継承性(日本民俗学でいえば「伝承性」)を特徴とする文化を類型的、定式的、固定的に捉えるのではなく、むしろ普通の人々が日常のなかで創造的に生み出す文化実践の、非正統で非公式、非定式な側面に着目する。つまり、ヴァナキュラーという概念を導入することによって、必ずしも継承されるとは限らない、一回的で創造的な芸能実践、つまり「ヴァナキュラー芸能」、また「民俗芸能のヴァナキュラー性」といった問題を議論の俎上にあげることができると考えられる。
 そこで本研究会では、まず松岡薫が一回的で即興的な演技を特徴とする俄(にわか)という「異端」の芸能を事例に、いかに地域の人々が俄の演技を作り、演じているのかという視点から、ヴァナキュラー芸能としての俄とその創造性について論じる。さらに、議論を深めるために、文化人類学の立場から奄美大島の余興演芸について研究をしている川田牧人氏と、演劇学の立場から日本全国の地域市民演劇について研究をしている日比野啓氏にコメントしていただく。そして、民俗芸能研究にヴァナキュラー芸能という視点を導入することの可能性について、フロアを交えて議論していきたい。(松岡薫)

■共催:現代民俗学会、東京大学東洋文化研究所班研究「東アジアにおける「民俗学」の方法的課題」研究会、野の文化論研究会(科研「ヴァナキュラー概念を用いた文化研究の視座の構築―民俗学的転回のために―」グループ(研究代表者:菅豊))

担当:菅



登録種別:研究活動記録
登録日時:MonMar2015:11:412023
登録者 :菅・田川
掲載期間:20230321 - 20230621
当日期間:20230311 - 20230311