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東文研・ASNET共催セミナー/着任研究会(井戸美里特任助教)「日本中世の風俗画における図像の引用と変容――「月次風俗画」のイコノロジー」が開催されました

東文研・ASNET共催セミナー/着任研究会(井戸美里特任助教)「日本中世の風俗画における図像の引用と変容――「月次風俗画」のイコノロジー」が開催されました

日時: 2013年7月4日(木)15:30-17:00

会場: 東京大学東洋文化研究所 3階 大会議室

題目: 日本中世の風俗画における図像の引用と変容――「月次風俗画」のイコノロジー

報告者: 井戸 美里 (東洋文化研究所・特任助教)

コメンテーター: 高岸 輝 (人文社会系研究科・准教授)

司会: 桝屋 友子 (東洋文化研究所・教授)

担当: 井戸 美里


【報告】
 岩国藩主吉川家に伝来する「月次風俗画屏風」(16世紀後半)は、屏風としては珍しい、小ぶりで八曲のつくりのものである。繊細で趣のある風俗画が描き込まれたこの屏風に関しては、作り手や、制作の場所や年代、その意図など、明らかにされていない部分が多い。今回の井戸氏の報告は、ここに描き込まれた図像を手掛かりに、屏風にまつわるいくつかの謎を解いていこうとするものであった。
 井戸氏がとくに着目したのは、「富士の巻狩り」と「大田植」の情景を描いた部分であった。当時の風俗画は、慣習的に、四季折々の行事を定式化された図像を用いて描かれていた。すなわち、350年以上も前に源頼朝が行ったという「富士の巻狩り」などの歴史的出来事や、現在の広島県や山口県に独特な年中行事である「大田植」といった地域色の強い場面が描かれることはごく珍しいことなのである。
 井戸氏は、岩国藩主吉川家の先祖が「富士の巻狩り」に実際に参加したことが記録される『曽我物語』や、岩国の地で「大田植」の際に歌われていた歌謡を集めた『田植草紙』などの文献史料を材料として、「富士の巻狩り」の図像が武家としての吉川氏の歴史を、「大田植」の図像が領主と領地の繁栄を、それぞれあらわしていたという見方を提示した。その上で、伝承にあるように「月次風俗画屏風」が、毛利家から吉川家への贈答品として制作された可能性を指摘した。さらには、吉川氏や毛利氏の周辺で成立したと考えられる「月次風俗図屏風」が、都としての集権的な京都の像に回収されない、その地方の領主にとっての理想の地域像を描き出すものであったと論じた。
  コメンテーターの高岸氏は井戸氏の議論を「説得力のあるもの」として高く評価した上で、当時の中国地方にこれほどの絵を描くことのできる絵師が存在したのか、これほどの屏風を生産する拠点があったのかという点を手掛かりに、さらに掘り下げて調査を行っていくことを提案した。その後、18名の参加者とともに活発な質疑応答と議論が行われ、大変に充実した会となった。


東文研・ASNET共催セミナー/着任研究会(井戸美里特任助教)「日本中世の風俗画における図像の引用と変容――「月次風俗画」のイコノロジー」が開催されました

東文研・ASNET共催セミナー/着任研究会(井戸美里特任助教)「日本中世の風俗画における図像の引用と変容――「月次風俗画」のイコノロジー」が開催されました



登録種別:研究活動記録
登録日時:MonJul815:28:212013
登録者 :井戸・後藤・藤岡
掲載期間:20130704 - 20131004
当日期間:20130704 - 20130704