2025年7月17日(木)14時より、辻大和准教授による2025年度 第3回 定例研究会「薬用植物の利用史からみる近世朝鮮」が開催された。 本発表では、はじめに交易の時代のアジアでは国際商品の生産や交易が進んだが、朝鮮王朝において、薬用動植物はどのように利用され、どのような問題があったのかという最近の問題関心が示された。第一部は16世紀末以降の朝鮮での天然薬用人参の流通について、国際環境の変容による国際交易の活発化により、朝鮮国内で資源枯渇の問題が発生したことを指摘した。第二部では朝鮮半島に自生しなかったウラルカンゾウ(甘草)について、15世紀には輸入がまず見られること、その後朝鮮国内で国産化に成功し、現在も韓国の生薬市場で多くの韓国産甘草が流通することを指摘した。最後には今後の展望として、他の薬用動植物、近代以降朝鮮での薬用植物栽培への着目が示された。研究会には37名が参加し、コメンテーターの額定其労准教授を皮切りに、国家による天然資源独占がしなかったこと、東北アジアの他の薬用動植物への注目、知識が翻訳されるプロセス、資源ナショナリズムの問題、ポストモンゴル時代での朝鮮の位置づけ、紅参の効果等について活発な質疑応答が行われた。
日時: 2025年7月17日(木)14時〜16時(日本時間)
会場:東京大学東洋文化研究所大会議室(3F)
開催形態:ハイブリッド開催
(対面は一般公開。但し、オンライン参加は東文研内教員に限定)
発表者:辻 大和(東京大学東洋文化研究所・准教授)
題目:薬用植物の利用史からみる近世朝鮮
司会: 真鍋 祐子(東京大学東洋文化研究所・教授)
コメンテーター:額定其労(東京大学東洋文化研究所・准教授)
使用言語:日本語
要旨:14世紀に建国された朝鮮王朝では、医学および国産生薬(郷薬)の研究が進み、17世紀初頭編纂の『東医宝鑑』に集大成された。古代には中国医学が朝鮮半島の諸王朝に導入されたが、朝鮮半島に産しない薬材が医薬書で記述されるなどの問題があり、高麗王朝期には国産薬材の研究がはじめられた。朝鮮王朝では漢方(韓方)で需要の大きい甘草の国産化に16世紀までに成功し、現代韓国でも甘草栽培が広く行われている。その後、東アジアでは朝鮮産薬材が注目されるようになり、17世紀には最初に中国向けに、次いで日本向けに薬用人蔘(朝鮮人蔘)の輸出が拡大した。本報告では薬用人蔘をはじめとする朝鮮産薬用生物の利用史についての報告者の研究の推移と、関連資料の発掘状況について報告する。