2015年1月23日(金)、韓国ソウルの成均館大学校において、成均館大学校東アジア学術院・東京大学東洋文化研究所・京都大学人文科学研究所共催によるシンポジウムが開催された。これは2003年以来続けて行われてきたもので、今年度のテーマは「東アジアを思惟する―共通・差異、関係―」であった。
東洋文化研究所からは、高見澤磨所長が討論者として参加したほか、卯田宗平講師と後藤絵美助教が報告を行った。卯田講師は「生き方に「東アジア的」はあるのか―東アジア概念を生態人類学の立場から考える」と題した報告のなかで、まず東アジア地域の文化的特色をまとめた文化論である「照葉樹林文化論」や「ナラ林文化論」を紹介した。そして、前者を構成する要素のひとつである鵜飼い漁に注目し、その中国と日本の差異を両地域の魚食文化や動物-人間関係の違いから考察した。そのうえで、卯田講師は発表タイトルの「生き方に「東アジア的」はあるのか?」という問いに対して「総論はいくぶん同感、各論はずいぶん違和感」と述べ、こうした考え方が出てくる思想的な背景をまとめた。
後藤助教の「アジアの切り分け方―西アジア研究の蓄積から考える」は、日本で「西アジア」という地域概念が成立するまでの経緯とその範囲、さらには同概念の有効性についての報告であった。ここでは、「近東」や「中東」という、類似した、ただし異なる含意を有する別の地域概念の用法と「西アジア」概念との関係性や、日本語で書かれた概説書のなかでの「西アジア」の範囲の多様性が指摘された後、「歴史的にあらわれてきた複数の地域概念を包み込みうるという点」で、同概念は有効性が認められうるという知見が示された。
高見澤所長は最後のまとめの言葉の一つのなかで、本シンポジウムの議論によって、「東アジア」概念があたりまえに存在するものではないということが明らかになったと述べ、会全体が充実していたこと、また今後につながる話し合いが行われたことを示した。これに続く議論は、来年度、東京大学東洋文化研究所を舞台に聞かれる予定である。次のシンポジウムの内容にも期待が寄せられる。
成均館大東アジア学術院、東京大学東洋文化研究所、京都大人文科学研究所
共同主催 2015年 シンポジウム
テーマ : 東アジアを思惟する―共通・差異、関係―
開催日 : 2015年1月23日(金曜日) 10:00〜18:00
開催場所 : 成均館大学校 600周年記念館 3階 第一会議室
趣旨: 成均館大東アジア学術院, 京都大人文科学研究所が共同主催するシンポジウムで、「東アジアを思惟する―共通・差異、関係」をテーマに発表と討論を行う。現在、東アジアという概念は学界の内外でひろく使われているが、それについてはいろんな角度から批判も出されている。そこで、本シンポジウムでは、東アジアという概念が必要なのか、東アジアをどういう意味で使っているのか、その概念を通じてどういう研究を目指しているのかなどの問題について広く議論する。
プログラム
10:00 | 開会の挨拶:辛承云(東アジア学術院 院長) |
第1部 発表 司会:高銀美(成均館大) | |
10:10 | 李昤昊(成均館大) :儒教の東伝と変容―その東アジア的意味 |
10:40 | 矢木毅(京都大) : 朝鮮後期在地社会における流品の構造 |
(10分 休憩) | |
11:20 | 小野容照(京都大) : 東洋青年同志会について― 李達の思想と運動 |
11:50 | 任佑卿(成均館大) : アジア脱/冷戦と修交の文化政治学 |
(12:20~13:30 昼休み) | |
13:30 | 卯田宗平(東京大) : 生き方に「東アジア的」はあるのか?―東アジア概念を生態人類学の立場から考える |
14:00 | 後藤絵美(東京大) : アジアの切り分け方―西アジア研究の蓄積から考える |
(10分 休憩) | |
第2部 個別討論ㆍ総合討論 | |
14:40 | 司会:宮嶋博史(成均館大) 討論 : 矢木毅 (京都大)、 孫炳圭 (成均館大)、韓基亨(成均館大)、 高見澤磨(東京大)、鄭勝振(成均館大)、裵亢燮(成均館大) |
17:00 | 閉会 |
担当:高見澤、卯田、後藤