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東文研セミナー「 米中貿易戦争のアジア太平洋地域の経済貿易および安全保障への影響 」(李麗珍 大陸委員会副主任委員) が開催されました

報告

  2018年11月15日、李麗珍大陸委員会副主任委員をお迎えして、「米中貿易戦争がアジア太平洋地域の経済貿易と安全に及ぼす影響(美中貿易戦対亜太区域経貿及安全之影響)」と題するセミナーが開催された。報告者の李副主任委員は、90年代のはじめから、大陸委員会経済処において中国との経済関係の処理に携わってきた長い実務経験をもつ。この経験をふまえ、米中貿易衝突においてどちらの損失が大きいのかを分析し、それが地域の貿易発展と安全保障にいかなる影響を与える可能性があるのか、さらに台湾はどう対応しようとしているのかについての報告がなされた。
  基本情勢としては、1990年代はじめに中国には10倍程度のGDPの差をつけていた米国が、近いうちに追い抜かれる可能性に直面し、「米国第一」主義によって、中国の台頭を阻止しようとしている。しかし、台湾は際立って対外貿易依存度が高い状況にあるので、国際貿易の重要性は中国よりも台湾の方が大きく、科学技術力の急速な向上、一帯一路構想、中国発展モデルなどの中国要因、米国の政策、EU・日本らの反応が、アジア太平洋地域の貿易動向に影響すると指摘する。
  台湾にとって中国は最大の貿易相手であり、貿易黒字を生み出す拠点である。台湾から中国への輸出は、主に中間財であり、投資先としても、観光客にしてもその重要性は低下していない。また、米中の貿易状況は、2009年度以降輸出入ともに伸びているが、中国は米国に携帯等の消費性商品を売っている。この消費性商品は、産業チェーンで相互補完的な役割をもっており、中国から米国に輸出する企業のベスト20のうち15社が台湾メーカーである。つまり、中国から米国への主力輸出品への制裁的な関税の付加は、台湾企業にとって大きな打撃となる。
  両岸(中台)関係は、中国が「92年合意」または「一中」の承認を要求し、台湾は屈服せず、後退せずという極めて慎重な対応がなされている。そのなかで、中国は、高度な技術産業での発展を目指し、台湾青年の起業奨励や国民待遇の提供、産業人材の引き抜きなどを進めており、中国のレッドサプライチェーン戦略は、台湾企業の位置づけに大きく影響している。
  こうした状況における米中貿易衝突は、台湾のみならず東アジア各国の経済と安全に影響を与えるものであり、望まれるものではなない。台湾としては、中国への中間財輸出を通じ米国市場へとつながるサプライチェーンの調整を、長期的な対応として模索しつつ、台湾の国際的な実力と他国では代替不可能な役割を担うことを目指し、慎重に対応しているとの分析と報告がなされた。
  十数名の参加者からは、蔡英文政権下の台湾はFTAへの積極的な姿勢があまり見られないのではないかなどの質問が出され、台湾企業の中国からの撤退は短期的には非常に困難であること、FTAへの積極的姿勢には変更がないものの、中国の対応などにより積極的に見えない状態になっていることなどが説明された。このセミナーでは、米中貿易戦争の状況やその影響の大きさ、そしてそれに対する台湾側の慎重かつ実務的な姿勢について、理解を深めることとなった。

(記録 清水麗)

当日の様子

開催情報

【日時】2018年11月15日(木) 18:00-19:00

【場所】東京大学東洋文化研究所3F大会議室

【講演者】李麗珍 大陸委員会副主任委員

【略歴】
 行政院大陸委員會主任秘書
 財團法人海峽交流基金會副秘書長兼發言人
 行政院大陸委員會經濟處副處長、處長
 行政院研究發展考核委員會副研究員
 國立中興大學公共政策所經濟政策組碩士

【題目】
「美中貿易戰對亞太區域經貿及安全之影響」(米中貿易戦争のアジア太平洋地域の経済貿易および安全保障への影響)

【司会・コメンテーター】松田 康博(東京大学)

【言語】中国語(質疑応答で日本語/中国語の通訳サポートがあります)

【サマリー】
針對美中經貿衝突不斷升高,和全球經貿秩序重建的巨大變局,說明此一新情勢對亞太區域經貿及安全帶來何種影響,以及臺灣目前的因應對策及戰略布局。

備考:本セミナーは、日本台湾学会定例研究会および科学研究費基盤A「対中依存構造化と中台のナショナリズムーポスト馬英九期台湾の国際政治学ー」(代表:松田康博)研究会との合同開催となります。

担当者:松田康博



登録種別:研究活動記録
登録日時:Mon Feb 25 14:48:09 2019
登録者 :松田・黄・田川・藤岡
掲載期間:20181115 - 20190215
当日期間:20181115 - 20181115