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延世大学校国学研究院主催 2022年度 4研究所合同シンポジウム「アジアにおける“越境”―移住・交渉・共生」が開催されました

 さる1月17日(火)、延世大学校国学研究院主催により、成均館大学東アジア学術院・京都大学人文科学研究所・延世大学国学研究院・東京大学東洋文化研究所参加の4研究所合同シンポジウム「アジアにおける“越境”-移住・交渉・共生」が開催された。東洋文化研究所主催による前回シンポジウム「アジアの災害」(2021年1月26日)より正式メンバーに加わった延世大での初の開催であり、ホストとしてきめ細かな準備がなされ、会場設営とシンポジウムの質のいずれにおいても素晴らしい学術交流の機会となった。シンポジウムは同時通訳を入れて対面とオンラインのハイブリッドによって円滑に進行され、過不足なく十分に議論を交わすことができた。

 今回の共同テーマ「アジアにおける“越境”―移住・交渉・共生」の企画趣旨は以下の通りである。
 「人類は文明を創造してから人為的に境界を引き始め、その境界は今日まで続いている。同時に人々は絶えず境界を越えて移動し、集団移住民による文化変容に見られるように、「越境」は人類の営みを変化させる原動力の一つであった。特に、「地球村」時代を生きる今日では、自由な「境界の移動」が日常的に行われており、人間の営みを規定する重要な要素となっている。
 また、今日境界を越える様々な様相のなかには交流や交渉だけではなく、排除や疎外もいつでも発生する。「越境」には、制限や束縛を越えて交流するという開放的な意味合いが含まれるが、境界を越える人々に対する排除が多くの問題を生み出していることも否定できない。例えば、20世紀初頭をはじめ歴史上存在した数多くの人々の移住には、「強制性」が介入したりもしたが、これは今日自分の意思とは関係なく「難民」となってしまった存在が受ける苦痛と一脈通ずるところがある。
 このように「越境」というテーマは、多様な領域で学術的な関心の対象になってきた。歴史上、地理的な境界を越えた人口の移動が政治、経済、社会、文化など国際的に引き起こした多様な変化をはじめ、文化、文学、芸術、知識、人種、階級、宗教、ジェンダー、フェミニズム、ディアスポラなどの境界を越える問題に対して多方面から研究がなされてきた。また、世の中の至るところで発現している様々な境界が再び重なり合って変形し、さらにまた境界と境界人を作り出す様相に注目して、これを「グローカリティー(glocality)」と呼んだりもする。最近では、「越境」に対する「脱近代的」な理解が模索されもした。
 2022年度のシンポジウムでは、以上のような「境界をまたぐ移動」の問題がアジアにおいてどのように展開され発現されてきたかについて注目する。各研究所で個別に蓄積された研究の成果を「越境」という接点を通じて一つに括ることにより、研究の地平が新たに切り開かれる契機となることを願う。」

 当日は対面とオンラインを合わせて30名強の参加者があった。開催にあたり各研究所の所長による挨拶があり、前日にミャンマー出張から帰国したばかりで日本からオンラインで参加した高橋昭雄所長は、人権という観点から示唆に富む感動的なスピーチを披露した。2021年2月に起きた国軍クーデターの経緯を1980年5月の光州事件になぞらえつつ紹介し、現地の研究者がおかれている苦境や教育・学術の停滞について述べた。また軍事政権の暴力を意に介さず旺盛な経済活動を展開する日韓両国のビジネスマンは「世界の人権状 況に疎い」と辛辣に指摘した。シンポジウムは各研究所より2名ずつ、計8名が報告を行い、それぞれに対して8名の討論者を交えた質疑応答がなされた。またフロアからも活発な質問とコメントが寄せられた。東洋文化研究所からは、「SessionⅡ-脱境界」において、上原究一准教授が「張飛義釈巌顔故事の受容史に見る「脱境界」」について、続く「SessionⅢ-連帯」で、渡邊祥子准教授が「マーリク・ベン・ナビー(1905~73年)に見るアジア・アフリカ連帯-両大戦間期と冷戦期の連続と断絶」と題して報告を行い、討論者およびフロアとの間で刺激的な議論が展開された。また馬場紀寿教授と田中有紀准教授が討論者として参加し、それぞれに鋭い質問で切り込んだ。

 4研究所合同シンポジウムの醍醐味はまさに「越境」という点にある。今回もまた「アジア」というゆるやかな括りの中で、ある共通テーマを軸として、それぞれが専門とする地域と方法論の違いを超えての異種格闘技のような刺激に満ちた学術交流の機会をもつことができた。

(報告 真鍋祐子)

詳細なプログラムは以下の通りである。

プログラム

●開会式
10:00~10:20
―開会の辞:金聖甫(延世大学校国学研究院・院長)
―祝辞:高橋昭雄(東京大学東洋文化研究所・所長)
―祝辞:稲葉穣(京都大学人文科学研究所・所長)
―祝辞:金慶浩(成均館大学校東アジア学術院・院長)
 ●session1―移動  司会:朴敬石(延世大)
発表①
10:30~11:10
西田愛(京都大)「岩石碑文にみる古代チベット氏族の移動」
討論:高蓮姫(成均館大)
発表②
11:10~11:50
高銀美(成均館大)「宋代貿易の形態と商人の性格」
討論:稲葉穣(京都大)
昼食
11:50~13:00
 
 ●sessionⅡ―脱境界  司会:都賢哲(延世大)
発表③
13:00~13:40
上原究一(東京大)「張飛義釈巌顔故事の受容史に見る「脱境界」」
討論:任佑卿(成均館大)
発表④
13:40~14:20
朴利鎮(成均館大)「日本「マンガ」の境界を超える―浦沢直樹『20世紀少年/21世紀少年』の叙事戦略と世代間の「慰労」」
討論:田中有紀(東京大)
発表⑤
14:20~15:00
申知瑛(延世大)「脱植民化の“不/完結性”と関係性の諸契機―崔仁勲『台風』(1973)、鮮于煇『外面』(1976)、大城立裕『ソロの驟雨』(1988)」
討論:馬場紀寿(東京大)
休憩
15:00~15:20
 
 ●sessionⅢ―連帯  司会:ウォン・ミジン(延世大)
発表⑥
15:20~16:00
小俣ラポー日登美(京都大)「16世紀フランスの演劇『Les Jammabos』の中の日本・韓国・中国」
討論:金杭(延世大)
発表⑦
16:00~16:40
発表:渡邊祥子(東京大)「マーリク・ベン・ナビ―(1905―73年)に見るアジア・アフリカ連帯―両大戦間期と冷戦期の連続と断絶」
討論:李基勲(延世大)
発表⑧
16:40~17:20
Lee Helen(延世大)「可視性と不可視性の境界で―金史良の『光の中に』で「解放の瞬間」を読む」
討論:伊藤順二(京都大)
●Round Table Discussion and Closing
17:20-18:00
Moderator 金聖甫(延世大)

当日の様子

担当:真鍋



登録種別:研究活動記録
登録日時:MonFeb1316:19:172023
登録者 :真鍋・田川
掲載期間:20230214 - 20230514
当日期間:20230117 - 20230117