2025年10月20日、東京大学東洋文化研究所において、スタンフォード大学のジェームズ・D・フィアロン教授が「現代の国家間軍事紛争は何をめぐるものか」と題する講演を行った。同講演会は、東京大学東洋文化研究所佐橋研究室、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット、東京大学国際政治研究会の共催で開催された。会議は対面で実施され、30名におよぶ教職員や学生が参加した。
フィアロン教授は、今日の国家間紛争の主因は伝統的な国家安全保障そのものではなく、政治体制間の対立およびナショナリズムに基づく領土問題にあると指摘し、こうした要因が「予防戦争」へとつながる構造を説明した。
まずフィアロン教授は、大国と中堅国家の間で生じる鋭い対立の背景には、しばしば従来の安全保障上の論理とは異なる動機が存在すると述べた。その第一の要因として同教授は政治体制の対立を挙げ、米国などの民主主義国家の存在自体が権威主義体制にとっては体制的脅威として受け取られると論じた。言い換えれば、独裁政権から見れば米国およびその同盟国こそが現状変更勢力として映るのである。第二の要因としてフィアロン教授はナショナリズムに根差した領土問題を指摘し、中国の台湾に対する主張と台湾内部の世論の対立を代表例として取り上げた。
続いてフィアロン教授は、このような対立状況では相手国から信頼できる約束を引き出すことが困難であるため、国家が軍備増強に踏み切る誘因が強まると説明した。とりわけ権威主義体制は、米国やEUが自国の崩壊を望まないとしても、内部反乱を支援しないという約束を完全には信用できない。政治体制の選好や領土をめぐる強い対立が存在する環境において、国家は他国から強制されることを避けるため、あるいは相手に強制されないようにするために、軍事能力を強化するという選択を行う。
さらにフィアロン教授は、実際の武力衝突はこの軍備増強競争の延長として生じる「予防戦争」の論理により引き起こされやすいと指摘した。ロシアとウクライナの例では、プーチン大統領のナショナリスト的理念がウクライナを「大ロシア」の一部と捉えている点が重要である。ウクライナがその脅威に対応しようとして軍備を拡張したことに対し、プーチンは高いコストとリスクを承知の上で軍事行動によって望む結果を確定させようとした。同様に、中国と台湾の関係においても、繁栄する台湾の民主主義は中国政権にとって体制安全保障上の脅威であり、中国は台湾の長期的な政治的自治を尊重するという約束を信頼に足るかたちで示すことができないため、主権問題を巧みに処理するための交渉による妥結は自己拘束的に機能しない。結果として、紛争の利害は事実上、不可分なものとなるとフェアロン教授は指摘した。
講演後には活発な質疑が行われた。ある参加者が、「強固な民主主義国家が権威主義体制に内在的な脅威となるのであれば、相対的に弱い国家による民主化支援はどのように認識されるのか。また、日本のような中堅国家の民主化支援外交はどのように受け止められるのか」と質問した。これに対してフィアロン教授は、日本は地域において極めて大きな影響力をもつ強国であると述べ、日本の民主化支援外交が権威主義国家に体制的挑戦と受け取られる可能性を否定しなかった。