News

東洋学研究情報センターセミナー 「アジアを知る:ドイツ映画「辛口ソースのハンス一丁」から」が開催されました

報告

 2017年7月30日(日)、情報学環福武ホールにて、ASNET・中東映画研究会主催、東洋文化研究所、東洋学研究情報センター・セミナー、科研費「イスラーム・ジェンダー学構築のための基礎的総合的研究」(代表:長沢栄治)共催のシンポジウム「アジアを知る—ドイツ映画『辛口ソースのハンス一丁』から/Knowing Asia through a German film Einmal Hans mit scharfer Sose」が開催された。今回のシンポジウムでは、ハティジェ・アキュン原作、ブケット・アラクシュ監督の『辛口ソースのハンス一丁』(2013年、ドイツ)が取り上げられた。
 映画の舞台は現代のドイツ、主人公はトルコ系移民2世の女性ハティジェである。ある日、未婚の妹ファトマの妊娠が発覚する。すぐにも結婚したいと願うファトマであったが、(妊娠の事実を知らない)父親は、姉よりも先に妹を結婚させられないと頑なである。ファトマを救うべく、ハティジェの婿探しが始まるのだが、因習的なトルコ系の男性を嫌い、「ドイツ人」との結婚を望んだハティジェの前にあらわれるのは、「トルコ系」並みに口うるさい男性や、マッチョさに欠けた(=金払いの悪い)男性など、理想からはほど遠い。ようやくよい相手に出会えたと思ったものの、家族の口出しが災いしてこれもうまく運ばない。
 本作品はドイツ在住のジャーナリスト、ハティジェ・アキュンの自伝的小説を、自身も移民二世である女性監督ブケット・アラクシュが映画化したものである。ドイツ映画研究を専門とする渋谷哲也氏は、ドイツ語で書かれた同小説の一部の内容を日本語で紹介しつつ、本映画作品についてのコメントを行った。渋谷氏によると、移民の人々の中にある「ドイツ人」と「トルコ系」というアイデンティティの揺れや、アイデンティティそのものの多様なあり方が鮮明に描かれていることが、本作品の魅力の一つである。
 また、トルコ系の人々が見せる「建前」と「本音」の機微も見どころである。これは、日本を含むアジア地域では比較的身近なものかもしれないが、率直なコミュニケーションが好まれるドイツではなかなか理解されない。そこで日常のあちこちの場面で「ドイツ人」と「トルコ系」の人々のあいだの意思疎通のずれが生じる。渋谷氏は、移民と受入社会の関係において深刻な事態にもなりうる状況が、ドイツ語のコメディ映画の枠内で、笑いをともなって描かれていることに本作の一つの意義があると述べた。
 50人を超す参加者を交えた質疑応答では、ドイツのトルコ系の人々が本作をどう評価したのかという点や、現代のドイツにおける恋愛・結婚事情について、また、本作とは逆に、トルコ系の男性とドイツ人の女性を主人公とする移民映画がつくられているのかといった質問があった。渋谷氏は、本映画の日本語字幕の翻訳者でもある。タイトルの意味について尋ねられた際、「辛口ソース」は甘辛のケバブソースのこと、「ハンス」とは典型的なドイツ人男性の名前であることを指摘した上で、「トルコ系の人々が好む刺激的なドイツ人男性一丁!」という含意があると説明した。
 参加者の中からは、本作を通して、「在日」の文化や社会、視点、そして「日本」の社会のあり方が想起されたという感想も聞かれた。ドイツのトルコ系移民を描いた映画を通して、「アジア」や日本について考えを巡らせる機会を得ることができた。

(報告執筆:ASNET/中東映画研究会 後藤絵美)


当日の盛況の様子については研究情報センターに掲載された記事をご覧ください。

担当:長澤



登録種別:研究活動記録
登録日時:MonAug2111:47:132017
登録者 :長澤・後藤・藤岡
掲載期間:20170730 - 20171030
当日期間:20170730 - 20170730