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2017年度 第2回 定例研究会(着任研究会)“Global environmental history of iron and steel industry in post war East Asia”(包 茂紅 客員教授)が開催されました

  2017年9月14日(木)の午後、包茂紅客員教授による着任研究会が、“The global environmental history of iron and steel industry in postwar East Asia(グローバル環境史における戦後東アジアの鉄鋼業)”と題して開催された。
  鉄鋼業は近代産業の発展において中心的地位を占めており、現代社会の発展と不可分である。包客員教授はこれまで、主に経済史、経営史、技術史などから鋼鉄業の歴史的発展に焦点を当てた研究を行ってきた。今回の研究会では、グローバルな視点における物質・経済環境史に着目し、「グローバルな商品連鎖(Global commodity chain)」と「モノの履歴(Life cycle of a product)」という二つのコンセプトからこの課題を取り上げた。

  包客員教授はまず、日本を中心とした戦後の東アジアの鋼鉄業の発展について解説した。日本の鋼鉄業は戦後、急速に成長し、高い国際競争力を獲得した。さらに総合商社で企業・産業間の調整を行い、海外企業への融資、株式取得を行うことによって、グローバルリソースのネットワークの構築を主導した。韓国と中国の鋼鉄業界も、日本からの技術供与および投資によって急成長した後に海外への輸出を拡大し、日本が主導するグローバルリソースのネットワークに参加したことで原材料を確保することができた。
  一方で、鉄鋼業の発展は深刻な環境破壊をもたらしている。鉱業は土地、およびその生物多様性と植生を破壊し、時に隣接地域の環境をも悪化させた。鉱物処理事業も有毒廃棄物を発生させた。鋼鉄業は海外で鉱物の処理を完成させたが、同時に有害物質も作り出した。製鉄所もまた生産過程で水資源を過剰に使用したり、温室効果ガスを排出したりし、環境を劣化させた。汚染物質の処理もまた新しい汚染物質を作り出した。具体例としては、ブラジルとオーストラリアの鉱山の汚染、環境破壊の事例が取り上げられ、写真を交えながら解説が加えられた。
  次に、包客員教授は、東アジア鉄鋼業が進めている環境ガバナンス協力を紹介した。まず、地球温暖化防止・CO2排出削減のためのグローバルな取り組みとして、京都議定書および京都議定書がある。また、日中鉄鋼業界における環境保全・省エネ技術交流会も開催されている。その他、日本と韓国も鋼鉄リサイクルの関連法を成立させ、スクラップの輸出をしている。中国ではまだリサイクル法は成立していないが、スクラップの受け入れは始めている。ただし、発展途上国ではリサイクルの法制化が整っていないため、リサイクルが効率的に行われておらず、さらに後発開発途上国では、リサイクル行為やリサイクル事業さえないという現状も指摘された。
  包客員教授は最後に、東アジアの鉄鋼業は、東アジアをはじめとする世界の環境に影響を与えており、その意味で地球環境史と地域環境史が絡み合っている問題であると指摘した。さらに日本は先進的な環境に優しい技術や制度を開発し、循環型社会のモデルを確立してきたと結論付けた。また、これからの研究課題として、東アジアの鉄鋼業の発展モデルは世界の鉄鋼業界の未来になるか、という問題に関心があると述べられた。

  約15名の参加者があり、報告に続いて、中国による周辺国(インドなど)への経済投資が環境保護に与えた影響、中国国内の汚染対策、発展途上国のリサイクル政策の不備をめぐって活発な議論が展開された。

当日の様子

開催情報

日 時 / Date: 2017年9月14日(木)14:00-16:00
Thursday, 14th September 2017 - 2:00pm to 4:00pm

会 場 / Venue: 東京大学 東洋文化研究所 3階 大会議室
Conference room 303 (3rd floor), Institute for Advanced Studies on Asia, The University of Tokyo

題 目 / Title: “Global environmental history of iron and steel industry in post war East Asia”

発表者 / Speaker: 包 茂紅(東洋文化研究所・客員教授)
BAO Maohong (Visiting Professor, IASA)

司 会 / Chairperson: 安冨 歩(東洋文化研究所・教授)
YASUTOMI Ayumi (Professor, IASA)

使用言語 / Language: 英語 / English

概 要 / Abstract:
  Iron and steel industry has held a central place in the development of modern industrial economy and society. In the post war era, world steel production has shifted from Europe and the US to East Asia. The existing historiography focused mainly on its economic history, management history, technological history,etc..This presentation will address its environmental history from the perspective of global history. Based on two key concepts (global commodity chain, life cycle analysis), the environmental impacts of mineral extraction, processing and product consumption will be analyzed.

担当:包



登録種別:研究活動記録
登録日時:FriSep2909:24:272017
登録者 :包・安富・蔵本・黄・野久保(撮影)・藤岡
掲載期間:20170914 - 20171214
当日期間:20170914 - 20170914