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東文研セミナー「パブリック・ヒストリー構築のための歴史実践に関する基礎的研究 第5回研究会 パネル発表「パブリック・ヒストリー—歴史実践の民俗学—」」が開催されました

報告

  菅豊教授(東京大学東洋文化研究所)を研究代表者とする科学研究費補助金基盤研究(B)「パブリック・ヒストリー構築のための歴史実践に関する基礎的研究」のプロジェクトの一環として、日本民俗学会第69回年会(佛教大学紫野キャンパス)においてパネル発表「パブリック・ヒストリー—歴史実践の民俗学—」が行われた。
  本発表は「パブリック・ヒストリー構築のための歴史実践に関する基礎的研究」の第5回研究会として行われた。まず研究代表者である菅教授が「パブリック・ヒストリーと歴史実践—反復される多様な歴史活用とその現代的展開—」と題する発表を行った。続いて市川秀之教授(滋賀県立大学)による発表「滋賀県下の字誌にみる歴史実践」、塚原伸治准教授(茨城大学)による発表「歴史を奏でる人々—佐原囃子をめぐる歴史実践—」、加藤幸治教授(東北学院大学)による発表「牡鹿半島における「復興キュレーション」と歴史実践」が行われた。
 発表後にはフロアとの活発な質疑応答が交わされた。

当日の様子

開催情報

日程: 平成29年10月15日(日)13時〜15時

会場: 佛教大学 紫野キャンパス 1号館4階 F会場

スケジュール:
 パネル発表「パブリック・ヒストリー—歴史実践の民俗学—」
 ○菅 豊(東京大学東洋文化研究所)「パブリック・ヒストリーと歴史実践—反復される多様な歴史活用とその現代的展開—」
 ○市川秀之(滋賀県立大学)「滋賀県下の字誌にみる歴史実践」
 ○塚原伸治(茨城大学)「歴史を奏でる人々—佐原囃子をめぐる歴史実践—」
 ○加藤幸治(東北学院大学)「牡鹿半島における「復興キュレーション」と歴史実践」
 質疑応答

趣旨
  日本の民俗学では、「歴史」を重要な研究課題として位置づけてきた。「歴史」民俗学者・福田アジオは、柳田民俗学の根本に「歴史の三段階論」があるとし、第一段階として、過去の理想的な状態、第二段階として、その理想が変化し解決を迫られる困難な問題が発生する段階、第三段階として、民俗学が貢献することにより問題が解決される段階を措定している(福田2014)。この第三段階で述べられる「解決」という段階が、容易、かつ単純に達成され得ないことは当然である。したがって、ここではより緩やかに、民俗学者によってある目的をもってなされる、歴史を媒介とした生活世界への介入、関与を示唆するものとしてこの段階を受けとめたい。本パネルで主題とするパブリック・ヒストリー(公共歴史学)は、この第三段階と関わる動きである。
  1970年代以降、米国では専門誌が刊行され、またパブリック・ヒストリーに関する学協会が設立されるなどその研究が活発化した。それらは、博物館や学校等の公共機関による資料公開や展示、そして歴史景観保護など「教室の外の歴史学(history practiced outside the classroom)」、すなわちアカデミックの外の歴史実践に重きを置いてきた。その動きは「二つの開放」によって特徴付けられている。第一の開放は、歴史実践を、専門研究者のみならず公共部門やNPO・NGO、企業、市民などへ開き、協働(collaboration)するという「担い手の開放」。第二の開放は、伝統的な歴史学が依拠してきた文献などの文字的媒体だけではなく、遺物や民具などの物質的媒体や絵画や映像などの視覚的媒体、オーラル・ヒストリーなどの音声的媒体など、民俗学も関心をもってきた多種多様な媒体に開く「史料の開放」である。それは、一義的に歴史学が現在向かいつつある一つの方向性であるが、パブリック・フォークロア(公共民俗学)と重なり合う部分も多く、米国においては多くの民俗学者がそれに関与している(菅2013)。
  日本の民俗学においては、過去に行われた一般の人びとによる歴史実践に関し、これまで多彩な研究が蓄積されてきた(武井2003、久野・時枝編2004、笹原2009、由谷・時枝編2010、及川2017など)。本パネルでは、そのような研究を踏まえつつも、現在から未来へと進行している歴史実践の「いま」に考究の比重を置く。さらに専門性を有した民俗学者(発表者)が、一般の人びととともに歴史実践を行いながら、生活世界へ介入し関与する状況(実践の契機や企図、願望、実践の技法、さらにそれが社会や個人に与える影響など)を題材として、民俗学者によるパブリック・ヒストリー研究/実践の今後の展望について討議する。(文責:菅豊)

参考文献:
及川祥平2017『偉人崇拝の民俗学』勉誠出版
笹原亮二編2009『口頭伝承と文字文化—文字の民俗学 声の歴史学』思文閣出版
菅豊2013『「新しい野の学問」の時代へ—知識生産と社会実践をつなぐために』岩波書店
武井基晃2003「史縁集団の伝承論—文字記録の読解と活用を中心に—」『日本民俗学』235
久野俊彦・時枝務編2004『偽文書学入門』柏書房
福田アジオ2014『民俗学のこれまでとこれから』岩田書院
由谷裕哉、時枝務編2010『郷土史と近代日本』角川学芸出版

担当:菅



登録種別:研究活動記録
登録日時:FriOct2015:57:472017
登録者 :菅・川野・藤岡
掲載期間:20171015 - 20180115
当日期間:20171015 - 20171015