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第60回 東文研・GJS共催セミナー「「グローバルヒストリアン」としての村上直次郎?:批判的検討」のお知らせ

日時:2019年6月14日(金)17:00~18:00

会場:東京大学東洋文化研究所 ロビー(1階)

発表者:ビルギット・トレムル・ヴェルナー(チューリッヒ大学ポスドク研究員)

使用言語:英語

要旨:
 村上直次郎(1868~1966)は平戸および長崎での貿易について広範にわたる著述を残した。それらは近代ヨーロッパからのさまざまな来航者による報告を紹介し、東・南シナ海における日本の国際関係を描き出している。村上が細心の配慮によって編纂した日本、ヨーロッパ、東南アジアの豊富な一次史料は、現在もグローバルヒストリーに携わる研究者に多くの示唆を与え続けている。実のところ村上の『異国日記抄』をはじめとする出版物は、徳川時代の日本とヨーロッパの海外交易国家との出会いや徳川幕府の環太平洋貿易への関心にとどまらず、当時の東南アジアについても、これらをめぐる従来の叙述を方向づけてきたといえる。とくに後者に関しては、この地域における日本の影響を過度に強調し、またそのためにこの地域における台湾を周縁化する傾向を促してきたのである。

 以上のことを踏まえ、今回の報告では、近世台湾をめぐる村上の二面的な歴史叙述に焦点を当てる。台湾は、在来の過去と他者との出会いが、いかにグローバルな国際関係をめぐる歴史叙述の書き換えに作用するかを問い直すための参照事例をもたらしてくれる。村上は、ローマ字で表記された現地語による契約文書、いわゆる「新港文書」を1897年に発見し1933年に公刊したが、そのこと自体がまさにこうした国際関係のひとつの例といえる。近世に台湾を観察した、明の陳第やドミニコ会士ディエゴ・アドゥアルテをはじめとする人々と同じく、村上もまた台湾原住民の過去に関する情報を、彼自身のもつ歴史的知識や社会組織の理論の枠組みに組み込もうと苦心した。村上らは例えば、在来の共同体が、漢人や日本の商人を仲立ちとして、現地の産物をグローバルな交易綱に供給していたことを強調する。しかし村上はこのように台湾を近世日本の国際関係の拡大に位置づけたことにより、この島は結局、東および南シナ海における国際関係史の叙述からは除外されることになった。彼は暗黙のうちに、台湾を公的なマクロ地域的国際関係の叙述に含めるには、台湾における中央権力の不在が妨げになるとみなしたのである。このことは、村上による台北帝国大学南洋史講座のカリキュラムにもっとも顕著に表れている。

 本報告ではこうした「他者の歴史叙述(historiography of the other)」に焦点を当てる。そして第一に、東および東南アジアの近世における国際関係と在来の社会組織のあり方に関する従来の思い込みを問い直すため、台湾の事例を検討する。第二に、明治末期における歴史叙述をめぐる思想と21世紀のグローバルヒストリー研究との対応関係について、その外郭を述べたい。

主催:東京大学国際総合日本学ネットワーク(GJS)、日本学術振興会科研費 JP17K13327

共催:東京大学東洋文化研究所(IASA)

お問い合わせ:gjs[at]ioc.u-tokyo.ac.jp



登録種別:研究会関連
登録日時:FriMay1015:00:362019
登録者 :gjs事務局・田川
掲載期間:20190510 - 20190614
当日期間:20190614 - 20190614