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ハラール産業の問題点

グローバル化が進み、人や物の往来がこれまで以上に盛んになっている今、それぞれの人の宗教的な心情や文化的な違いに配慮して、誰もが安心して食べられる食品や、利用できる物品を準備し、提供することはとても大切なことでしょう。とくに日本のようにムスリムが少数派の国でも目の前にあるものがハラールかどうかが一見してわかるとすれば、外国から訪れたムスリムにとって便利なはずです。一方で、商品やサービスを一定の基準によって認証したり、マークをつけたりするハラール産業には問題点もあります。

一つは神によって「許されたもの」が明文化され、標準化されることで、これまで許容されてきた多様なとらえ方が否定されてしまうことです。もう一つは、ほとんどの場合、認証基準が詳細に設定されていることです。

厳密な基準を設定しておけば、それに達したものは安心してハラールと呼べるという考え方があるかもしれません。しかし、ムスリムの食や生活に関して、細かなルールが神の名のもとに設定されてしまうといったい何が起こるでしょうか。人々の意識や行動が均一化され制限されること、認証の有無に頼る人やこだわる人が増えて「ムスリムとそれ以外」という線引きが明確化することが懸念されます。

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✿ハラール産業の問題点✿

「許されたもの」の明文化・標準化
イスラーム教の文脈でハラールとは神によって許されたもののこと。神の意思に従って生きたいと願うムスリムの人々にとって、何がハラールかという問いは重要です。これまで、この問いは、人々の日々の生活の中で、それぞれの場面に応じて答えが求められてきました。その結果、個人と神との関係性の中で多様な答えが生まれ、その状況は、ほかのムスリムからも許容されてきたのです。ところが、ハラール産業では、特定の団体や機関が答えを一つに規定し、それを文章化することで、何が「許されたもの」かを標準化しようとしています。

詳細な認証基準の設定
ハラール産業の認証基準はしばしばごく細部にまで言及しています。また、その傾向はしだいに強まっています。たとえば、クルアーンでは、豚肉が「禁じられたもの」の一つに数えられていますが、ハラール認証機関の多くでは、豚肉だけでなく豚由来の成分を含むあらゆるものの禁止を明言しています。その場合、原材料だけでなく、製造過程に用いられるものや、輸送ルート、保管先にも、「豚の気配」が一切ないことが条件の一つとなっています。近年、内容物が何由来かがDNAのレベルでわかるようになりました。科学の進歩とともに、審査はより細かい部分まで、徹底的に行われつつあります。

✿危惧されること✿

人々の意識や行動が均一化され、制限される
認証基準が標準化すると、ハラールに対する人々の意識や行動も基準に沿うかたちで均一化し、基準から外れた考え方や行動をとることが難しくなります。基準から外れた考えや行動をとる人は周囲から「ムスリム」として認められなくなるかもしれません。食品や製品が認証基準を満たしているかどうかは、高度に専門的な審査によってのみわかるのですから、人々はやがて自ら考えて判断することをあきらめるでしょう。

「ムスリムとそれ以外」という線引きが明確化
こうした状況があたりまえになると、とくに若い世代の間などで、ハラール認証マークのあるものだけが「安心できるもの」になり、それ以外の食品や製品は「安心できないもの」となっていくことが考えられます。「ムスリムが安心して食べられる物はこちら」「安心して暮らせる空間はこちら」。そんなふうに、ムスリムとそれ以外の人びとのあいだで、食卓や生活が分断されていくことが考えられます。

そんなことが起こらないように、世界中の人が一緒の食卓を囲み続けられるように、私たちはいったい何ができるでしょうか。

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