アジアの環境に注目した図書を出版する意義は大きく二つあります。
ひとつは、いまアジアの各地で起こっている環境問題の現実とそれに対する研究アプローチの多様性を読者に幅広く理解してもらうことにあります。いまひとつは、東京大学に所属する気鋭の若手研究者の最新の研究成果を一般に公開することで、環境をめぐる差し迫った問題に対して学際的に取り組んでいる姿勢を内外に示すことにあります。
本書は、東京大学日本・アジアに関する教育研究ネットワーク(以下、ASNET)が企画した「アジアの環境研究の最前線」科目の内容を編集したものです。この科目は、東京大学の学生であれば所属する研究科の枠組みを超えて自由に履修できる教育カリキュラムです。実際、この科目には農学や医学、工学、法学、国際協力、地域研究などを専攻する学生が多く履修しました。そのため、担当の先生方には、専攻を異にする学生にも簡単に理解してもらえるように自身の問題意識や研究の方法論、結論、今後の展望などをできるかぎり限り平易な言葉で説明していただきました。
本書は、アジアで発生している環境問題を広く、そして深く知りたい一般の方々や、中学・高校生も読者として想定しています。
2014年7月27日 卯田宗平
はじめに(古田元夫) | |
ガイダンス 環境研究に「絶対解」はあるのか?(卯田宗平) | |
I 社会のなかの個人 | |
第1講 | トンガ人はなぜ太る?――人類生態学から考える(小西祥子) |
第2講 | 病は誰が決めるのか?――精神看護学から考える(宮本有紀) |
第3講 | 環境改善でマラリアは予防できるか?――国際保健学から考える(安岡潤子) |
II 自然の振る舞い | |
第4講 | なぜ里山の生物多様性を守るのか?――地域生態学から考える(大久保悟) |
第5講 | 濁った海は汚いのか?――沿岸環境学から考える(鯉渕幸生) |
第6講 | 人は森林とどう暮らすか?――環境社会学から考える(田中求) |
第7講 | スギは河川の生物にとって「悪者」か?――河川生態学から考える(加賀谷隆) |
III 他者とのかかわり | |
第8講 | 国際保健事業とどのようにかかわるべきか?――国際政治学から考える(安田佳代) |
第9講 | 災害に「強い」社会とは?――労働とジェンダーから考える(荻原久美子) |
第10講 | グリーン・ツーリズムは地域再生に役立つか?――地域社会学から考える(大堀研) |
IV 展開される知 | |
第11講 | アジアの水は安全か?――都市環境工学から考える(小熊久美子) |
第12講 | 新しいコンピューティング環境を創造できるか?――ユビキタス・コンピューティングから考える(鵜坂智則) |
第13講 | 都市の大気汚染はなぜ解決されないのか?――都市環境工学から考える(星子智美) |
第14講 | どうして水不足が生じるのか?――サステイナビリティ学から考える(本多了) |
古田元夫 監修
卯田宗平
編
『アジアの環境研究入門』
東京大学出版会, 298ページ
2014年7月