所長挨拶

 東京大学東洋文化研究所は、主として人文学や社会科学の方法を用いて、アジアと世界の過去・現在・未来を総合的に研究し理解しようとする研究者のための世界的な拠点です。人文学や社会科学の方法を縦横に使いこなし、複数のアプローチを融合させた独創的な方法によって、アジアと世界の国々や諸地域のさまざまな側面についての信頼に足る研究成果を発信することが、研究所員に課された第一の使命です。この使命を果たすために、研究所では多彩な研究活動が精力的に展開されています。

 良質の研究を生み出すためには、古今東西の図書や文献、資料を十分に参照することが必要です。本研究所には、その70年に及ぶ歴史の中で収集・蓄積された70万冊に近い蔵書があり、アジア研究に関する有数のコレクションとして、内外の多くの研究者に活用されています。これらの貴重な書籍や資料を大切に保存し次世代に引き継ぐとともに、その規模と内容の拡充を図ることも、本研究所の大事な使命です。

 東京大学の中で研究所が果たすべきもっとも重要な責務が「研究」であることは確かです。しかし、所員は研究だけを行っているわけではありません。ほとんどのスタッフが各自の関係する大学院で授業を担当し、大学院生の指導にあたっています。また、日本学術振興会特別研究員、諸外国のポスドクや博士課程学生など多くの若手研究者を受け入れ、優秀なアジア研究の専門家の育成に努めています。「教育」もまた、東洋文化研究所を語る際に無視できないポイントであることを強調しておきたいと思います。

 東洋文化研究所は、2010年からその英文名称をInstitute for Advanced Studies on Asiaに変更しました。また、2011年4月には、新しい研究組織として、「新世代アジア研究部門」を設置しました。いずれも、スピーディーでダイナミックな現代世界の動きに対応するために採られた施策です。Advanced Studies on Asiaとは、さまざまな学問的背景を持った世界各地の研究者が集まり、それぞれの学問分野の枠を超えて自由に情報や意見を交換し、そこから新たな研究方法を生み出して、現代アジアと世界を深く理解することを目指す学問研究のスタイルのことです。新世代アジア研究部門は、このスタイルを実現するための強力な拠点となるはずです。

 日本におけるアジア研究の拠点から世界における日本・アジアと世界の研究拠点へ、東洋文化研究所は、東京大学における文系の高等研究所を目指してさらに前進を続けます。ご期待下さい。

2011年5月 所長 羽田 正