東京大学東洋文化研究所

班研究

S - 2 「 南アジア農村社会の歴史的研究 」

  • 主任;古井龍介

  • 概要:

    南アジアにおいては近年、インドが市場自由化に伴う目覚ましい経済発展によりその国際的プレゼンスを増す一方、パキスタンでは政情の不安定化が進行し、またネパールおよびスリランカで内戦が一応の終結を見、バングラデシュでも国際市場と結び付いた形で産業が展開するなど、新たな局面が多様な形で出来しつつある。一方、貧困やカースト差別、宗教および民族対立などの問題は未解決のまま残存し、国際市場との連結や都市中間層の台頭などを通してむしろ深刻化・複雑化の度を増している。以上の新局面・問題を理解する上では、経済発展著しい都市部のみならず、農村社会の研究が不可欠である。その所以は、近代以降の急激な都市化にも関わらず、南アジア各地に生活する人々の大半は農耕・牧畜を主要な生業として未だ農村に居住しており、現在に至るまで農村社会が政治・経済の重要な場であり続けているためである。
    南アジアの農村社会は、その多様性と複雑な社会関係・権力構造により特徴づけられる。ヒマラヤの高山地帯からベンガルの低湿地、中央インドの森林地帯からラージャスターンの砂漠までを含む多様な環境は、生業および居住の面で人間社会に様々な形態での適応を要求してきた。一方、異なる生業・文化レベルに属する社会集団が共時的に存在し、相互に影響しあう南アジアの歴史的過程は、農村社会内部および農村社会と都市、非定住農耕・非農耕社会集団との間の複雑な社会関係・権力構造に帰結した。これらは南アジア各地で展開し、独特の地域社会・文化を形成するにいたった。
    このような南アジア農村社会の研究は、その多様性と複雑性を捨象した本質主義的理解ではなく、むしろ地域的多様性を前提とした歴史的アプローチによりなされるべきである。南アジア農村社会が経て来た歴史的過程においては、古代・中世にまで遡りうる中・長期的変化と近代化による急激な変化の双方が決定的な役割を果たしてきたと考えられる。以上の観点から、本研究会は、農村社会内外の権力構造およびその歴史変化への着目を共通基盤としつつ、歴史学・社会学・文化人類学・政治学という多様なディシプリンを専攻し、南アジアの異なる地域を研究する各研究者の個別研究により南アジア各地域における農村社会の変化への理解を深めるとともに、研究者間の交流及び協力を通して各時代・地域における変化の過程をより根本的なレベルで比較し、南アジア農村社会全体に共通する歴史変化を論ずることが可能であるか模索することを目的とする。

    太 田 信 宏   南インド・カルナータカ地方における『村役人』
    小 川 道 大   18-19世紀インド西部の農村社会と国家の関係 
    木 村 真希子  インド北東部における民族的アイデンティティと農村社会間の関係
    小 嶋 常 喜   植民地期インドにおける農村社会の変容と社会運動
    小茄子川  歩  先・原史インドの農村社会と都市
    小 西 公 大   現代インドにおける集村および散村の流動性と社会関係 
    中 溝 和 弥   現代農村社会の権力関係
    名 和 克 郎   極西部ネパール、ビャンス社会の現代における変容
    野 村 親 義   近・現代インド工業化と農村社会 
    舟 橋 健 太   現代インドの農村社会における社会変容 
    古 井 龍 介   東インド中世初期農村社会の権力関係
    三 田 昌 彦   西インド中世農村社会と都市

研究内容・成果報告