書籍紹介

馬場 紀寿 著 『初期仏教 ブッダの思想をたどる』(岩波新書)

著者からの紹介

  古代インドで生まれた仏教は、民族を越え、国境を越えてアジア各地に広まり、今や欧米にまで伝わっています。各地で多様な哲学や文化や信仰を生み出した仏教は、もともと、どのような思想を説いたのか。本書では、資料から遡ることができる最も古い時代の仏教思想を復元して、この問いに答えたいと思います。
  初期の仏教は、キリスト教やイスラム教で信じるような、世界を創造した神は存在しないと考えました。外から与えられた規範によってではなく、一人生まれ一人死にいく自己に立脚して倫理を組み立てます。さらに、生の不確実性を真正面から見据え、自己を再生産する「渇望」という衝動の克服を説きます。
  先の見えない社会状況の中で不安が蔓延している今日、このような初期仏教の思想は、魅力をかえって増しているように見えます。本書を通して、その内容をできるかぎり分かりやすく紹介します。ブッダが教えを人々に教えを広めるに当たり、宣言したという言葉は印象的です。
聞く耳ある者たちに、不死への門は開かれた。

目次

はじまりの仏教
第一章 仏教の誕生
 1 アーリヤ人の社会
 2 都市化が新思想を生んだ
 3 ブッダと仏教教団
 4 ブッダのインド思想批判
第二章 初期仏典のなりたち
 1 仏教の変容
 2 口頭伝承された初期仏典
 3 「法と律」から「三蔵」へ
第三章 ブッダの思想をたどる
 1 結集仏典の原形をさぐる
 2 諸部派が共有したブッダの教え
 3 初期仏教の思想を特定する
第四章 贈与と自律
 1 順序だてて教えを説く
 2 「行為」の意味を転換する
 3 社会をとらえ直す
第五章 苦と渇望の知
 1 四聖諦と縁起の構造
 2 主体の不在
 3 生存の危機――苦聖諦
 4 生存を作るもの――苦集聖諦
 5 生存の二形態
第六章 再生なき生を生きる
 1 「自己の再生産」を停止する
 2 再生なき生――苦滅聖諦
 3 二項対立を超える道――苦滅道聖諦
 4 「アーリヤ」の逆説的転換
ひろがる仏教
あとがき
引用経典対照表/主要参考文献
付記 律蔵の仏伝的記述にあるブッダの教え/図版出典一覧

情報

馬場 紀寿 著 『初期仏教 ブッダの思想をたどる』
岩波新書,   256ページ2018年8月ISBN: 9784004317357
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