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集中セミナー「マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか」(2015年5月4-6日)が開催されました

報告

  東洋文化研究所,東洋学研究情報センターは,東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL)との共催で,集中セミナー「マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか」を,2015年5月4-6日の日程で,東京大学山中寮内藤セミナーハウスにて開催した。 (※6月12日、追加情報を下記に掲載しました)

集中セミナー「マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか」(2015年5月4-6日)報告

  この集中セミナーは,マムルーク朝期の著名な歴史家マクリーズィーの自筆本研究で世界的に注目を集めるリエージュ大学(ベルギー)のフレデリック・ボダン教授を主たる講師として開催したものである。セミナーの主目的は,ボダン教授がその自筆本研究を通じて明らかにしてきた,マクリーズィーによる知的生産のため日常実践のあり方を,12時間(休憩含む)にわたるボダン教授の講義を通じて学ぶことであった。ボダン教授の講義は,まさに教授をガイドとしてマクリーズィーの書斎に潜入し,彼の肩越しに様々な作業を覗き見ているかのような気にさせる,濃密にして贅沢な内容のものであった。マクリーズィーはどのように先行の文献から情報を抜き出し,それをどのように整理し,どのような形でどのような紙を使って作品の下書きを作成し,それをどうやって清書して作品として公表していたか。史料作家としてのマクリーズィーのこのような知的実践の具体像が,まるで目の前で実際に展開しているかのように活き活きと再現されていく様子は,実に刺激的なものであった。

集中セミナー「マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか」(2015年5月4-6日)報告

  ボダン教授の講義を通じて受講者が学んだ知見は,自筆本研究の豊かな可能性を強く印象づけただけではない。それは,前近代の中東イスラーム圏で作られた「書かれたもの」を研究に用いるあらゆる者にとって,普段自分が対峙している「書かれたもの」について,そのテクストとしての性質をもう一度根本から考え直させるようなインパクトを秘めたものであった。すなわち,ボダン教授の講義を受けた者は,たまたま「手に入った」テクストを所与のものとして受動的に受容しそれを研究に用いるのではなく,いったいそのテクストが生成や伝来の過程のうちのどのような段階にあるものなのか,あるいはそのテクストが見せる特異な特徴がそうした過程におけるなんらかの特殊な履歴によって説明できないかといった問題に関し,否応なしに敏感にならざるをえなくなった。そして,そうした一件細かな問題にこだわることが,単に方法上の洗練をもたらすだけでなく,魅力に満ちた独自の視点につながることがあることをも強く認識するようになった。

集中セミナー「マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか」(2015年5月4-6日)報告

  集中セミナーは,様々な研究機関に所属するメンバーによるアラビア語史料輪読の機会(すなわちそれを通じた史料講読に関係するスキルの交換の機会)を提供するための,また,特に大学院生の参加者に将来の国際学会デビューのための練習の機会を提供するための,メニューも含んでいた。すなわち,日本人講師が担当する計6時間のアラビア語テクスト講読(ボダン教授の講義で用いられたマクリーズィーのものを中心とする材料の講読)と大学院生による英語での研究発表(4本,2時間)を,午後のボダン教授の講義を挟んで,それぞれ午前と夕方とに開催した。2泊3日で18時間(休憩時間含む),かなり「みっちり」と勉強したセミナーであったと言えると思う。

  セミナーの参加者はボダン教授を除いて21名。研究教育機関の教員・研究員などが11名,大学院生が9名,学部生が1名であった。参加者の所属機関もお茶の水女子大学,学術振興会カイロ事務所,九州大学,京都大学,甲南大学,神戸大学,千葉科学大学,東京大学,同志社大学,東洋文庫,北海道大学,早稲田大学と多様であり,セミナーは様々な研究情報の交換と研究者の懇親の場ともなった。

 最後に,主たる講師の役割をお引き受け下さったフレデリック・ボダン教授,史料講読の講師担当をお引き受け下さった伊藤隆郎神戸大学大学院准教授,中町信孝甲南大学教授,森山央朗同志社大学准教授,そして,ボダン教授の日本訪問を助成して下さった日本学術振興会(外国人研究者招へい事業短期S-15008)に心からの謝意を表したい。また,本セミナーの開催は,U-PARLの熊倉和歌子特任研究員の獅子奮迅の働きがなければ絶対に不可能であった。熊倉研究員にも心よりお礼申し上げる。

(文責:東洋文化研究所 森本一夫)

 


集中セミナー「マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか」(2015年5月4-6日)報告 集中セミナー「マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか」(2015年5月4-6日)報告
集中セミナー「マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか」(2015年5月4-6日)報告 集中セミナー「マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか」(2015年5月4-6日)報告

追加情報(6月12日)

今回の集中セミナーについて、セミナー参加者による報告がU-PARLサイトに掲載されております。

報告者】
・ 辻大地(九州大学、学部4年)
・ 徳永佳晃(東京大学、修士課程)
・ 野口舞子(お茶の水女子大学、博士後期課程)

本セミナーの活況の様子がつぶさに伝わる報告です。ぜひこちらの記事も併せてご参照ください。

http://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/archives/japanese/seminar2015-report

開催情報

集中セミナー:
マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか
Looking over al-Maqrīzī’s Shoulder: The Working Method of a Medieval Egyptian Historian

 この度、フレデリック・ボダン教授(リエージュ大学)を講師にむかえ、上記のテーマで2泊3日の集中セミナーを、東京大学山中寮内藤セミナーハウス(東京大学保健体育寮)にて開催する運びとなりました。
 ボダン教授は、アラビア語文献学、イスラーム社会史の分野において顕著な業績を挙げている世界的な研究者です。教授の研究の中でも、とくに近年大きな成果を挙げているのは、手稿本史料への「考古学的」アプローチから当時の知識人の知的実践を明らかにする、知識社会史に関する研究です。教授が初めて学界に紹介したリエージュ大学図書館所蔵、マクリーズィー(1364¬–1442)の「雑記帳」は、中世イスラーム社会の知識人を代表するこの人物の自筆による極めて史料的価値の高い手稿本ですが、教授はこの史料の入り組んだ記述を丹念に解きほぐす作業から、著者の執筆手順を詳細に再構成することに成功しました。集中セミナーでは、ボダン教授の最新の手稿本研究から明らかになる中世エジプトの歴史家・知識人の知的実践のあり方について、ともに学びたいと思います。
 扱う材料はアラビア語で書かれた中世エジプトの歴史関係の文献が中心になりますが、前近代のイスラーム圏で作成された「書かれたもの」と関わる研究を志す(あるいは現に行っている)皆さんにとって、それぞれに得るところの大きなセミナーとなることを確信しています。以下に参加要領を示しますので、多くの皆様に積極的に手を挙げていただければと思います。
 なお、この集中セミナーは東京大学東洋文化研究所、東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL)、東京大学東洋文化研究所東洋学情報センターの共催で、日本学術振興会外国人研究者招へい事業(短期)の助成を受けて開催するものです。

東洋文化研究所
森本 一夫

 


■開催日程と場所
 5月4日(月)–5月6日(水)(2泊3日)
東京大学山中寮内藤セミナーハウス(東京大学保健体育寮(スポーティア))

■使用言語
 英語(一部日本語)

■セミナーの構成(プログラム)
詳細はこちらをご覧ください/ 1280x875, png

集中セミナー「マクリーズィーの作業を肩越しに覗く:中世エジプトの歴史家はどう仕事をしていたのか」(2015年5月4-6日)報告

担当:森本



登録種別:研究活動記録
登録日時:WedMay2015:39:192015
登録者 :森本・藤岡
掲載期間:20150506 - 20150806
当日期間:20150504 - 20150506