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第3回定例研究会「エジプト社会の家族的構成－ナギーブ・マハフーズ『バイナルカスライン』を素材にして」が開催されました。

第3回定例研究会「エジプト社会の家族的構成－ナギーブ・マハフーズ『バイナルカスライン』を素材にして」

2014年1月16日（木）の午後、今年度3回目の定例研究会が開催され、長澤榮治教授（東洋文化研究所西アジア研究部門）による「エジプト社会の家族的構成－ナギーブ・マハフーズ『バイナルカスライン』を素材にして」と題する研究報告が行われた。

長澤氏はまず、エジプトの家族を題材とした研究史を概観し、そこに社会経済史的な共同体論の適用による議論から、個人や世帯の調査を主眼とした議論へという流れがあったことを指摘した。その上で、長澤氏自身は（小家族や拡大家族、親族集団など様々な意味をもちうる）「アーイラ」や「ウスラ」という語彙に着目し、葬儀広告や憲法などの文脈で、それらがどのように使用されてきたのかを考察してきたことを明らかにした。

本報告はその延長上にあり、かつ、地域研究としての家族研究の可能性を探るものである。長澤氏は、そのための資料として、ノーベル賞受賞作としても知られるナギーブ・マハフーズの『バイナルカスライン』と、エジプトの社会学者サイイド・オウェイスの自伝『私が背負った歴史』をとり上げ、そこにあらわれる家族をめぐる語彙の用例を紹介した。

マハフーズの小説には、家屋や家庭を含む家（いえ）をあらわす「バイト」、核家族や拡大家族を意味する「ウスラ」、一族をあらわす「アール」、「国民」から「家族」まで広い意味で用いられる「アハル」といった語彙があらわれる一方で、長澤氏はこれまでの研究の中で注目されてきた「アーイラ」の使用が見られないことを指摘した。さらに、小説の舞台とほぼ同時代、同じく下町の商家で子供時代を過ごしたオウェイスの伝記を参照し、その家族構成や用いられた家族をめぐる語彙とその定義を比較対象として提示した。

結論部分で長澤氏は、地域研究者として大切なのは、「家族の本質とは何か、それはどのような概念か」を問うことではなく、小説や自伝などの資料を細かく見ていく中で、そうした概念を「下から作り上げていく」ことではないかと述べた。そうする中でこそ、ある社会的現実が分析可能になるのだという。

報告後、コメンテーターの加藤博教授（一橋大学大学院経済学研究科）が、家族研究の姿勢と研究者の出自の関わりについての興味深いコメントを述べた後、家族と社会の関係性や、家族における女性の位置づけについての問いを投げかけた。また、ナギーブ・マハフーズの小説の翻訳者である塙治夫氏もコメントを寄せるなど、終始、充実した研究会となった。