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2017年度 第4回 定例研究会 「『伝統化』するとき・しないとき:フィリピン先住民の歌と近代」(米野みちよ 准教授)が開催されました

報告


 2017年11月2日に、当研究所大会議室にで、定例研究会が開かれ、米野みちよ准教授が「『伝統化』するとき・しないとき:フィリピン先住民の歌と近代」と題して、講演を行った。二十年以上にわたる、フィリピン北部山岳地帯の先住民コミュニティにおける民謡とその社会に関する調査をもとに、「サリドゥマイ」と呼ばれている「民謡」の生成の過程を軸に、先住民がコンテクストによって使い分けている複数のエージェンシーについて、複数の近代性・前近代性との交渉、という視点から考察した。

 コメンテイターの塚田健一氏(桐朋学園大学大学院教授、広島市立大学名誉教授)は、発表のパフォーマンス性(発表者自らが歌いながら例証)、問題設定の妥当性、および民族音楽学史における最大の課題、「音楽(テクスト)と社会(コンテクスト)とのバランスの問題」に対するバランスの妥当性、について評価した。その上で、国家の文化政策との関係編言及の欠如、および理論的考察の未整理、が問題として指摘された。

 これに対して、会場からは、フィリピンでは国家の体制が全体に脆弱で社会の各場面でその影響が少ないことが紹介された。また、名前をつけてカテゴリ化するプロセスの本質的な意味、テクノロジーの発達との関係、アジアの先住民の歌の一定の普遍性、など、について質疑応答がされた。

当日の様子

開催情報

日時: 2017年11月2日(木)14:00-16:00

会場: 東京大学 東洋文化研究所 3階 大会議室

題目: 「伝統化」するとき・しないとき:フィリピン先住民の歌と近代

発表者: 米野 みちよ(東洋文化研究所・准教授)

司会: 青山 和佳(東洋文化研究所・教授)

コメンテーター: 塚田 健一(桐朋学園大学大学院・教授)

使用言語: 日本語(英語のパワーポイントを用意)

概要:
 フィリピン北部の山岳地の「サリドゥマイ」と呼ばれる民謡のジャンルは、二十世紀に、それ以前から伝わる様々な歌の歌詞に、近代的な、あるいはアメリカ的な旋律がつけられて、成立していった。
 フィリピンの国民文化形成や民族運動の脈絡では、サリドゥマイは、「伝統的な歌」として表象される(伝統化)が、現地の人々は、脈略によって、これを「伝統的な歌」といったり、「新しい歌」といったり、またこのほかに様々な形容をして、「サリドゥマイ」について語る。二十世紀から二十一世紀初頭にかけての、サリドゥマイについての語り(認識)の変遷、また「サリドゥマイ」という名称と文化カテゴリーの生成、音楽構造の変遷、歌い方の変遷、などのデータから、近代性の多様な側面について理論的な考察をする。
 フィリピン北部の山地民たちは、フィリピン国家、また「コルディレラ地方」という「想像の共同体」(アンダーソン)の中で生活しつつ、同時に、「統治されない技術」(スコット)をも行使している。このような脈略の使い分けは、一般的には人類学者オートナー(2006)の提唱するエージェンシーの二重性で説明されうる。しかし、空間的に辺境の地に生活する先住民(マイノリティ、さらにマイノリティの中のマイノリティ)の場合、より多層な力関係の中で交渉しながら生活しているので、本研究では、オートナーを応用して「エージェンシーの斬次的多重性」を提言する。
 さらに、その「多層な力関係」および多様な語りや歌い方の様式から見えてきたのは、ポストコロニアルな辺境地における、多層な近代性の共存である。張慶燮(2010)の「圧縮された近代」を継承しつつ、ガルシア・カンクリーニ(1989)の提唱する多時間的混淆性を応用して、近代性の「多時空間的混沌性」を提言する。

担当:米野



登録種別:研究活動記録
登録日時:WedFeb2115:52:412018
登録者 :米野・野久保(撮影)・山下・藤岡
掲載期間:20171102 - 20180202
当日期間:20171102 - 20171102