News

東文研セミナー「中国の医療体制改革過程における合法性付与メカニズムの変革」が開催されました

講演者:馬長山華東政法大学法学院教授(2010年7月1日から2011年6月30日まで東京大学・東洋文化研究所・訪問研究員)

日時:2011年6月25日(土)15:00~17:45

場所:東京大学・東洋文化研究所・3階・第一会議室

主催(共催):科学研究費補助金基盤研究(B)「世紀交代期中国の文化転形に関する言説分析的研究」(代表、砂山幸夫愛知大学・現代中国学部・教授)、東京大学・東洋文化研究所・班研究「世紀交代期中国における文化転形」(主任 尾崎文昭東京大学・東洋文化研究所・教授)、同「中国法研究における固有法史研究、近代法史研究及び現代法研究の総合の試み」(主任 高見澤磨東京大学・東洋文化研究所・教授)

セミナーの内容:
標記題目につき、まず、中国史のおける合法性付与のパターンについての認識が占めされた。古代より1970年代にいたるまでのパターンは専制に対して農民起義が起こり、起義の指導者が王や皇帝を称し(その座を直ちにおわれる場合を含めて)、再び専制の時代となるということであった。1970年代末以降、とりわけ1990年代以降市場メカニズムを前提とする商工業が発展し、合法性獲得のメカニズムが変化しつつあると認識し、その変化のパターンを医療制度改革を例に抽出することが報告の主眼であった。
セミナーにおいて紹介された内容を概述すれば、以下のようになる。限られた政治エリートの創造物として新たな政策が提出されるという旧来のパターンにのっとり1980年代に医療の市場化が提唱された。しかし、それは庶民の医療サービス需要を切り捨てるものとなった。それは医療制度改革としては成功したとは言えず、批判が起こった。次の段階では大学やコンサルタント会社などの複数の専門家たちへの諮問とそれらからの複数の答申という形態を採ることとなった。このルートで民意も伝わることとなった。さらにその議論が公になるとインターネットによる人々の意見表明も行われるようになり、一定の対話のもとに政策決定がなされるようになってきている。故にその決定された政策も政策決定過程も、合法性につい言えば、一定の政治エリートの検討と発案とを根拠とした時代、政治エリートからの諮問を受けた複数の専門家の検討と提案とを根拠とした時代、そして現在のような市民の意見も一定程度反映されていることを以て根拠とする時代へと移っている。また、医療体制も当初の市場化から政府が一定の関与を行い福祉的考慮を組み込む方向へと変化している。但し、インターネットにしても既存のメディアにしても情報の収集や意見の表明に参加できる層には限りがあり、また、政治システム改革も短期間にはできないので、この変化を全面的に評価することはできず、長期の改革を必要とする。
上記のような内容であれば、中国における医療システムに興味のある参加者や政策決定の正当性について興味のある参加者から多くの議論が起こることが期待されたが、講演だけで予定時間の全てが使われてしまったのは残念であった。セミナー終了後の懇親会では議論が行われた。たとえば、表題は「合法性」という表現が用いられ、報告でもそれが用いられているが、上記のように「正当性」と言い換えることができるか、という質問に対しては、肯定の回答が得られた。


(以上、文責は高見澤。2011年6月27日整理)



登録種別:研究活動記録
登録日時:TueJun2815:45:022011
登録者 :高見澤・藤岡
掲載期間:20110625 - 20110928
当日期間:20110625 - 20110625