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2023年度 第5回 定例研究会 「選択からの自由」 安冨 歩 元教授 (最終研究発表会)

日時: 2024年2月15日(木)14時00分〜16時00分

開催形式:オンライン開催(Zoom)
       参加人数には制限がかかっておりますので、先着順で対応いたします。

発表者:安冨 歩(東京大学東洋文化研究所・元教授)

題目:選択からの自由

司会:田中 有紀(東京大学東洋文化研究所・准教授)

討論:長津 十 (ヘルシンキ大学社会科学部実践哲学科・教授)

   田中 有紀(東京大学東洋文化研究所・准教授)

使用言語:日本語

申込方法:
登録フォーム (https://forms.gle/YYa4Ga9ogvRJaY7GA)より、2月14日正午までにお申し込みください。2月15日正午までにZoom入室用URLをお送りいたします。

要旨:
アメリカの哲学者フィンガレットは、『論語』を研究し、分岐した道のなかから正しい道を選択する、という考えの無いことに気づき、そこに西欧哲学との本質的な差異を見た。『論語』の道は分岐なき道であり、誤りとは、そこから離れてしまうことであって、間違った道を選ぶことではない。私はいくつかの著作で、そもそも、人間が生きる中で、正しい道を可能な選択肢から選択するということは、原理的に不可能なタスクであることを指摘し、現代の諸学、特に経済学を始めとする社会科学は、この選択概念に深く依拠しており、そのことが、これらの議論を不毛にしている、と主張した。では、西欧思想は、なぜかくも深く、選択概念にとらわれるようになったのであろうか。私は、機会あるごとにこの問題を眺めてきたので、最終報告会では、その途中経過を報告したい。大雑把な流れは、以下の通りである。選択の淵源はほぼ間違いなく、アリストテレスのプロアイレシスという概念にあり、それが、さまざまの経路を経て、アウグスティヌスとトマス・アキナスに流れ込み、中世哲学の枠組となった。また黙示録的な最後の審判への恐れが中世を支配し、そこから煉獄という思想が生まれ、そこでの死者の苦悩を削減するためのミサたるレクイエムの重要性が高まった。このような恐怖を背景として、ルターが、人間には選択の能力がそもそもない、という後期アウグスティヌスの主張を徹底し、宗教改革を引き起こした。つまり、選択の自由の否定が、近代を生み出す第一歩となったのである。ゆえに近代哲学は、ホッブズに代表されるような、徹底した選択の自由の否定の方向に進んでいった。にもかかわらず、近代の社会生活は、選択の自由とそこから生じる責任、という中世的概念を軸に構成され、驚くべきことに、それが現代にまで流れ込んでいる。それゆえ、現代の諸問題を乗り越えるには、選択からの自由を確保することが不可欠であり、そのための代替概念を探し出すことが、非西欧社会の研究者に求められ、東洋文化研究はその重要な柱だと私は考えている。私自身が到達した一つの候補は、「仁」である。

 

お問い合わせ:inquiry_final_lecture_20240215[at]ioc.u-tokyo.ac.jp



登録種別:研究会関連
登録日時:TueJan2310:56:132024
登録者 :安富・キム・多田
掲載期間:20240124 - 20240215
当日期間:20240215 - 20240215