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【ご案内】(9/11)東文研シンポジウム「無形文化遺産保護運動と中国民俗学―その可能性と課題―」

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研究集会名:「無形文化遺産保護運動と中国民俗学―その可能性と課題―」
日時:2010年9月11日(土)13:00~
場所:東京大学東洋文化研究所3階大会議室
○発表者:周星(愛知大学教授)、施愛東(中国社会科学院文学研究所副研究員)
○コメンテーター:西村真志葉(インディペンデント・フォークロリスト)
○通訳:彭偉文(神奈川大学日本常民文化研究所特別研究員)
○コーディネーター:周星、菅豊(東京大学教授)、中野泰(筑波大学講師)

〔内容〕
 現在、世界の至るところでユネスコが主導する無形文化遺産(中国語:非物質文化遺産)を保護する動きが活発化しています。それは、保護する対象そのものが民俗学の研究課題であるばかりでなく、文化のグローバル・ポリティクスである保護運動までもが、重要な研究課題となっています。そして、その動きは、各国の民俗学の趨勢に大きな影響を与えています。従来、「民俗」という言葉で、その研究対象を文化から切り取ってきた民俗学は、現在、政策的に生まれた「無形文化遺産」という言葉に呑み込まれるとともに、それを一方では利用し、さらに、一方では危機感をもって受けとめています。
 今回の研究会では、日本以上に無形文化遺産保護活動が活発化している中国を題材に、その保護運動が中国の社会や民俗学にいかなる影響を与えたのか、気鋭の中国民俗学者に論じていただきます。これまで、日本の民俗学者の一部も、無形文化遺産保護政策に関与してきました。しかし、日本の民俗学は、無形文化遺産保護に関する理論的研究や実態的研究を、いまだ十分に積み重ねていません。また、その学問的影響に関する議論も、十分に積み重ねていません。無形文化遺産保護運動はグローバルな課題であり、その課題に多くの知見をもつ中国民俗学から、私たち日本の民俗学研究者は、まさに「他山の石」として多くのことを学ぶことができるでしょう。そして、中国民俗学の状況を学ぶことによって、日本において公共民俗学の観点から無形文化遺産を問い直す起点を、私たちは見定めることができるでしょう(文責:菅豊)。

〔発表タイトルと要旨〕
○周星(愛知大学教授):「非物質文化遺産の保護運動と文化政策、及び「文化観」の転換―中国における『公共民俗学』の可能性と危険性」
[発表要旨]
 21世紀に入って、中国では馴染みのない「非物質文化遺産」(略称:「非遺」)という言葉が突然「流行語」になった。中国は、改革開放の一環としてユネスコの関連条約に素早く加盟した。政府の「政治主導」による社会動員や、マスコミの喧噪を含めて、非物質文化遺産の保護運動が全国にわたって盛大に繰り広げられている現在、「非物質文化遺産」というカテゴリーと民俗学の研究対象とは、かなり重なっているため、数多くの民俗学者が国の文化遺産行政に巻き込まれている。民俗学者が何をもって国の文化遺産行政に参加しているのか、それは民俗学にとって何を意味しているのか、民俗学が政府の文化事業に関わることによりどんなメリットを得られたのか、何を失ってしまったのか。
 本発表では、このような中国社会における民俗学のあり方、存在感及び学問的実践の可能性という、現在まさに問い直さなければならない課題について検討する。さらに、独立した学問としての中国民俗学が、『公共民俗学』という発想・構想をどう受けとめるべきかという問題、また、文化遺産行政に呑み込まれて学問の立場や独立性を喪失するという危惧が現実になりつつある問題についても指摘したい。

○施愛東(中国社会科学院文学研究所副研究員):「中国における非物質文化遺産保護運動の民俗学への負の影響」
[発表要旨]
 中国では、研究者が非物質文化遺産へ関心を示し始めたのは、2002年のことであったが、民俗学者がこの運動に関わるようになったのは、主に2003年からであり、全面的に取り組み始めたのは2005年であった。現在、非物質文化遺産保護運動に携わる研究者の多くは民俗学者である。非物質文化遺産保護運動に参加するのは、民俗学にとって回避できない社会的責任であり、学術的責任であり、また新しいチャンスでもあると、多くの中国民俗学者が考えている。
 しかし、民俗学の学科の発展から見ると、このような動きが楽観的な将来をもたらしてくれると思えない。非物質文化遺産保護は、主に行政行為であり、学術研究ではない。そして、学術研究の政治への過度な依存は、往々にして学問の独立性を犠牲にするのである。保護と研究は、違う範疇に属する概念である。民俗学の既存の方法と規範を棄て、保護運動に取り組むことは、必ず今後の民俗学研究の持続的発展に悪影響を与えよう。なぜならば、学科の重心が非物質文化遺産保護に移り、通常の研究が停滞することにより、民俗学の学問として重要性と影響力がさらに弱められるからである。
 現代中国民俗学の歴史が示すように、中国には幾度の学術運動があったが、その終息のたびに、民俗学は必ず全体的学問レベルの下落という代償を支払わなければならなかった。それゆえ、非物質文化遺産保護という学術運動が幕を閉じると、中国民俗学は新しい苦境に陥る可能性が窺えよう。

主催/共催:東京大学東洋文化研究所班研究「東アジアにおける「民俗学」の方法的課題」研究会、科研「市民社会に対応する『公共民俗学』創成のための基礎研究」グループ、現代民俗学会、公共民俗学研究会

その他:参加自由です。中国語の発表、討論には通訳がつきます。お問い合わせは東京大学東洋文化研究所・菅豊(http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/faculty/index.htmlに菅のメールアドレスが記載されています)までお願いいたします。
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菅  豊 
東京大学東洋文化研究所
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Phone/Fax: 03-5841-5875
菅豊研究室のウェブサイト:
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~suga/
菅豊研究室のブログ:民俗学の道しるべ
http://suga.asablo.jp/blog/
※研究所の英語名称がInstitute for Advanced Studies
on Asiaに変わりました
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Yutaka Suga, Ph. D.
Professor of Folklore
Institute for Advanced Studies on Asia
University of Tokyo
7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, JAPAN
※Our Institute's name has been changed.
(formerly called " Institute of Oriental Culture")
Phone/Fax: +81-3-5841-5875
suga@ioc.u-tokyo.ac.jp
URL: http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~suga/
Weblog: http://suga.asablo.jp/blog/


登録種別:研究会関連
登録日時:Tue Aug 17 11:19:24 2010
登録者 :研究支援担当
掲載期間:20100817 - 20100911
当日期間:20100911 - 20100911