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東文研セミナー「故郷の表象―台湾美術史の生成と現在―」が開催されました

報告

2024年3月31日、東文研セミナー「故郷の表象―台湾美術史の生成と現在―」が開催された。まず冒頭に、荒井経(東京藝術大学)より科研(「水墨画」と「彩色画」のあいだにある、通称「水色科研」)について、美術史研究者と作家がともに研究することの意味が述べられ、板倉聖哲(東洋文化研究所)の総合司会でワークショップがはじまった。

まず邱函妮氏(国立台湾大学芸術史研究所)より、新著『描かれた「故郷」:日本統治期における台湾美術の研究』(2023)の紹介と、台湾美術史研究をはじめることになった学術的・社会的な体験が語られ、陳澄波を中心に台湾人作家にとっていかに故郷を描くのかという課題、そして1920年代における台湾人アイデンティティー形成の関連について、具体的な作品の分析や一次史料をもとに、重厚な基調講演が行われた。

つづいて、蔡家丘氏(国立台湾師範大学芸術史研究所)より、林玉山の東京留学中のスケッチブックの分析が行われ、日本伝来の唐絵や新渡中国画、日本画・西洋絵画をうまく学んでいたこと、また1949年以降においても渡海三大家たちの水墨画に触れて「対話」をはじめ、台湾美術がかえって東アジア近代における美術実験の最前線となっていたことが述べられた。また、陳芃宇氏(多摩美術大学)からは、台湾での美術教育や水墨・書道教育について、日本の教育課程と比較して報告が行われ、筑波大学に留学して日本画や新しい材料に触れ、自らの居場所やアイデンティティー追求のなかで、窓や自転車、椅子といった新しいモチーフの絵画化や、紙を生かした表現へと変化していった経験をご発表頂いた。

これらの発表をうけて、呉孟晋氏(京都大学人文科学研究所)より、日本の台湾美術史研究と展覧会開催の歩みが振り返られ、各発表へのコメントがあった。最後の総合討論では、西洋絵画の古典意識の問題や、多様な背景をもった作家たちのアイデンティティー意識、断絶と連続などについて、会場を含めて積極的な質疑応答が行われ、時間を大幅に超過して終了した。

会場には40名、オンラインでは60名ほどの参加者があり、台湾美術史への関心の高さがうかがわれた。これからも学術的なネットワークと協同をはかる重要性を共有し、無事閉会となった。

 

当日の様子

開催情報

日時:2024年3月31日(日)13時30分〜17時(日本時間)

会場:東京大学東洋文化研究所 大会議室(3F)

 

プログラム:

 総合司会  板倉聖哲
ご挨拶13:30~13:35
荒井経(東京藝術大学)
基調講演13:35~14:50
「日本統治期における台湾美術の研究—故郷、ローカル・カラー、アイデンティティ—」
邱函妮(国立台湾大学芸術史研究所)
 (休憩 10分)
研究発表115:00~15:30
「台湾における日本画から中国絵画への再構築—画家林玉山の創作を中心に—」
蔡家丘(国立台湾師範大学芸術史研究所)
研究発表215:30~16:00
「見える居場所—さがして、描く—」
陳芃宇(多摩美術大学)
コメント呉孟晋(京都大学人文科学研究所)
 (休憩 10分)
討論16:20~17:00
司会 塚本麿充

 

開催趣旨:
近年の台湾では、日本や中国の近代美術とも違った台湾美術の研究や展覧会が積極的に行われています。このたび、『描かれた「故郷」:日本統治期における台湾美術の研究』(東京大学出版会、2023年)で倫雅美術奨励賞(第34回)を受賞された邱函妮氏をお招きし、また『台湾美術両百年』(2022年、春山出版)の共編者である蔡家丘先生、台湾出身で日本で創作を続けておられる陳芃宇先生をまじえ、戦前から戦後にかけての台湾美術の発展の現在を、「故郷」への複合的な意識、およびその表象をキーワードとして、多角的に検討します。

主催:東京大学東洋文化研究所東アジア美術研究室、科研費基盤研究(B)
  「水墨画」と「彩色画」—1945年以降の東アジアにおける絵画表現に関する調査研究(代表:荒井経)

 

担当:板倉・塚本



登録種別:研究活動記録
登録日時:ThuApr413:26:092024
登録者 :板倉・塚本・多田
掲載期間:20240405 - 20240705
当日期間:20240331 - 20240331