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安富歩 著『誰が星の王子さまを殺したのか』の韓国語版が刊行されました

 2018年6月5日、東洋文化研究所の安冨歩(あゆみ)教授の著書『誰が星の王子さまを殺したのか』の韓国語版が、韓国のミンドゥレ(タンポポという意味)出版社から刊行された。1998年創業したミンドゥレは「新しい教育の在り方」といった代替教育(Alternative Education, Free Schooling)を中心として取り上げた単行本を多数出しており、また、今年で創刊20周年を迎える隔月刊誌「ミンドゥレ」(2018年2月現在、通巻第115号まで発売)でも韓国内に多くの読者層を持っている。代替教育業界で重要な位置を占める隔月刊誌「ミンドゥレ」は、教育の在り方に対する様々な人々の多種多様な想像力をぶつけ合う「場」としての役割を果たしてきた。また、出版社の入っている建物の一部を「空間ミンドゥレ」という名前の代替学校の現場としても活用している。
 ミンドゥレ出版社は日本との繋がりが深く、たとえば和歌山県にある「きのくに学園」と交流を続けており、また『下流志向』をはじめとする内田樹氏の本を数巻出している。ミンドゥレが安冨教授の本を出したのは今回が初めてであるが、この次に「東大話法」について取り上げた本を出すことが既に決まっており、今後、韓国社会内に安冨という「未発掘の知性」を積極的に広める意向を見せている。

「あっ、それは暴力だったんだ」

 韓国語版の翻訳者の私(パク ソルバロ)が安冨教授の『誰が星の王子さまを殺したのか』を読んで(そして翻訳して)まず最初に感じたのは、それまで自分が受けてきた様々な暴力(モラル・ハラスメント)についてだった。同書で安冨教授が指摘しているように、世の中にある多くの暴力が「あなたのため」や「愛情」といった名の下で横行している。私個人の経験に限って考えてみても、自分が生まれてから身を置いてきた「4大場所」たる家庭、学校、軍隊、会社のどこも、例外ではない。あの時あの人が言ってたあの言葉は暴力だったんだ、と考えるようになると、苦しみながらも繰り返してきた自己嫌悪からかなり抜け出せるようになった。精神的健康を取り戻したとも言えよう。
 ただ、よくよく考えると自分が振るわれてきた暴力のことよりも、自分も同じく暴力を振るってきた「加害者」だったかもしれないということに気付くようになった。恋人に、家族に、同僚に、自分が「あなたのため」や「大儀」という名を盾に押し付けてきた自分の姿を、もう一度振り返るようになったのだ。こう考えることによって、日常の言動にも大きな変化がもたらされた。世の中への見方も変わってきた。『誰が星の王子さまを殺したのか』をきっかけに変化した今の自分が、さらに一つのきっかけとなって、韓国社会においても同じく繰り返されてきた暴力に、少しでもマッタをかけられるのなら、という気持ちで翻訳に臨んだ。それが、東アジアの知的交流の懸け橋になろうと決意し、長期にわたって努力を重ねてきた自分の原点でもある。安冨教授の『もう「東大話法」にはだまされない』の刊行も予定されており、年内にでも韓国で安冨教授の講演会やブックコンサートなどが開催されるよう提案していきたいと考えている。
パク ソルバロ

 



登録種別:研究活動記録
登録日時:MonJun1810:13:362018
登録者 :安富・藤岡
掲載期間:20180624 - 20180924
当日期間:20180624 - 20180624