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第1回 定例研究会「東洋的知性の再生:学術・芸術・宗教・生活の実践的再統合を目指して」(安冨 歩 教授)が開催されました

報告

  2017年7月20日(木)の午後、今年度の第1回定例研究会が本研究所大会議室にて開催され、安冨歩教授(東京大学東洋文化研究所)による「東洋的知性の再生:学術・芸術・宗教・生活の実践的再統合を目指して」と題する研究報告が行われた。
  安冨教授は今日の発表を、これまでの研究成果のまとめと同時に、今後の研究の方向性を示すものと位置付ける。安冨教授の研究の原点は、住友銀行で「バブルを起こす仕事に従事して、発狂しそうに」なった経験にある。「なぜ『優秀』な人が集まって、とんでもない愚かな暴走をするのか」。この問いに導かれるままに、理論経済学、満洲国の社会経済史、複雑系科学、ハラスメント/コミュニケーション、社会生態学、魂の脱植民地化、古典を読む(孫子、論語、老子)、宗教思想の解読(エックハルト、親鸞、スピノザ)、芸術の解読と表現、ホースセラピーの実践といった多岐にわたる研究/実践を行ってきた。
  その結果として、次のような結論に達する。つまり「『優秀』な人が集まって、とんでもなく愚かな暴走をする」理由は、「『優秀』な人が愚か」であり、「集まると、相互作用で更に愚かに」なり、「暴走が始まると、ますます愚かになる」からである。そこでこうした問題を克服するために、「合理的な神秘主義」(語りえぬもの(神秘)を受け入れた上で、語りうるもの、つまり生きる力を破壊する暴力について合理的に記述し、その除去を目指すという態度)と「魂の脱植民地化」(自分が受けてきた暴力を認識し、自分自身であろうとすること)を提唱する。そしてその具体的実践として、自身の女性装が位置づけられる。また女性装に対する世間の反応を通して、差別の原因は向けられる側ではなく、向ける側にあることに気づいたと述べる。
  これまでの研究/実践を踏まえ、安冨教授はこれからの研究の根本的なテーマとして、「近代的知性の帯びる暴力性をどのように解除するのか」という問いを立てる。近代的知性の本質とは、人間を「神秘」から切り離し、「専門」へと細分化すること、にほかならない。そこで今後の研究では、「神秘」と触れる力を回復し、それを阻害する暴力を合理的に語ることを目指すとした上で、その具体的な研究/実践として、孔子、老子、エックハルト、親鸞、スピノザ、マルクス、ガンディー、ラッセル、ヴィットゲンシュタイン、石橋湛山などの解読、音楽をする・音楽を読む、馬に乗る・ホースセラピーが挙げられる。そしてこうした試みには、専門化され分断された近代的知性によって引き起こされた諸問題を、前近代的知性の回復によって乗り越える、という人類史的意義があると述べる。
  安冨教授の研究に関わってきたコメンテーターのよりたかつひこ(ホースセラピスト)、片岡祐介(音楽家)、与那覇大智(画家)はそれぞれの分野から安冨教授の研究についてコメントした。会場では安冨教授の著書および絵も展示された。
  安冨教授は最後に自らの創作曲「星の王子さま」を歌い、研究会を締めくくった。約35名の参加者があり、報告に続いて活発な議論が展開された。

当日の様子

開催情報

日 時: 2017年7月20日(木)15:00-17:00

会 場: 東京大学 東洋文化研究所 3階 大会議室

題 目: 東洋的知性の再生:学術・芸術・宗教・生活の実践的再統合を目指して

発表者: 安冨 歩(東洋文化研究所・教授)

司 会: 藏本 龍介(東洋文化研究所・准教授)

コメンテーター: よりた かつひこ(ホースセラピスト)、片岡 祐介(音楽家)、与那覇 大智(画家)

使用言語: 日本語

そ の 他: インターネット放送局の中継あり

概 要:
  報告者は1986年から2年半、住友銀行に勤務し、バブルを発生させる仕事に従事した。そこから、優秀なはずの人々が集まって、破壊的な愚行を行う理由を研究するようになった。その目的で、大日本帝国を滅亡に導いた満洲事変以降の過程を理解すべく満洲国の金融史を研究し、同時に有効な貨幣理論を構築すべく複雑系科学に着手した。そこから人間が魂の自由を失い、ロボットとなったときに集団的暴走が起きると考え、モラル・ハラスメントを研究し、その具体的な様相として原発危機をめぐる「東大話法」の概念を提唱した。また、このような状態から離脱する道を探り、『論語』、『老子』、親鸞、マイケル・ジャクソンの思想、『星の王子さま』などを研究し、同様の観点からクラシック音楽の名曲を解読する作業を行った。この模索の結果、「神秘」を前提として語りうるもののみを語るというヴィットゲンシュタインの提案を真剣に受け止めるべきだと考え、「合理的な神秘主義」を提案した。現在はこのような線に沿った知性を実践的に回復する必要があると考え、前近代的な総合的知性を実現する道を探っており、音楽活動、絵画制作、ホースセラピーの実践などに取り組んでいる。本報告では、この過程を簡単にレビューしつつ、この後の方向を展望する。

担当:安冨



登録種別:研究活動記録
登録日時:Mon Jul 31 11:23:45 2017
登録者 :安富・黄・野久保(撮影)・藤岡
掲載期間:20170720 - 20171020
当日期間:20170720 - 20170720