砂糖・コーヒー・米 (SCORT) 研究会の目的





 19世紀の半ば過ぎまでの時期にアジアが世界資本主義経済システムの中に包摂されていく過程は、香辛料・コーヒー・茶・砂糖・絹など当時としては高価で希少な消費財の対欧米輸出の発展に依存していた。(本研究では、アジアは主に西はインド、東は日本までの地域を指すものとする。)

 しかし、20世紀に入ると、性質の異なる2つのタイプの輸出品が重要性を増すようになる。すなわち、一方ではゴム・石油などに代表される重工業原料や燃料であり、他方では日本のように軽工業製品の輸出を開始し、それにより発展する国も現れた。このような変化に並行して、砂糖や米のような19世紀以来の伝統的輸出品の多くは、もはやかつてのような希少で高価な消費財ではなく、大量生産される安価な商品へと変貌をとげた。そのような変貌を遂げる上で、アジアを含む大衆消費市場の発達は重要な要因であった。

 このような新しい輸出品の登場と伝統的輸出産品の輸出市場の変化に伴って、アジアの輸出経済は需要と市場の変化に対応した新しい産業立地・産業構造が形成され、流通における大規模な変動が起き、社会構造全体にも大きな影響を与えた。

 さらに重要なことは、21世紀に入った今もなおその変動過程が続いているということである。近年において、砂糖・コーヒー・米などの価格の暴落はアジア諸国の農村経済に大きな影響を与え、貧困を悪化させ、深刻な問題となっている。このような現代的課題に答える上でアジアの貿易構造の変化を歴史的に捉えておくことは極めて重要な課題である。

 本研究では、19世紀以降一貫してアジアからの主要輸出産品であった砂糖・コーヒー・米の3商品に特に注目して、現在に至るまでのこの変動過程とその意味を経済史研究の手法により明らかにすると同時に、それらの価格暴落という今日的問題にも迫ることを目的とする。




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