『紀要』第139冊要旨


『紀要』第139冊 吉開将人 「印からみた南越世界——嶺南古璽印考」(後篇)要旨
『紀要』第139冊

吉開将人 「印からみた南越世界——嶺南古璽印考」(後篇)要旨

秦漢交替期の禁制においては、「執圭」は官職でいえば郡の長官である郡守より格下の県令クラスの封君であり、南越の場合もほぼこれに相当するだろう。海南島の対岸である広西の合浦県でも「労邑執圭」琥珀印が発見されており、この地域に対し、南越王権が楚制による封爵を集中的に行なったことがわかる。漢に対しては冊封国として王号を称し、自国内においては帝として臨んだことからも明らかなように、南越国の王権構造はきわめて複合的な性質をもっていた。印章を利用した本研究全体を通じて、南越国の成立基盤である広州などの南越内地には秦漢の制を採用し、新たに占領した外地であるベトナム北部には「膏浦候」などの独自の官を置いて統治し、その中間地帯には禁制である「執圭」を封じるなど、当時の南越世界の中に重圏的な地域構造が存在していたことが新たに明らかとなった。
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『紀要』第139冊 廣瀬玲子 「西廂記の「注疏」——王蹊徳・毛奇齢による戯曲の読解——」 要旨
『紀要』第139冊

廣瀬玲子 「西廂記の「注疏」——王蹊徳・毛奇齢による戯曲の読解——」 要旨

本稿は、『西廂記』に対する注釈についての論考である。『西廂記』は、戯曲には珍しく、注釈を施した版本が何種類もある。そのうちの明代の王驥徳本・清代の毛奇齢本の二種について、校訂・注釈の特徴を明らかにし、書物の伝承と古典化という広い視野に立って、'戯曲にとって校訂・注釈とはどのような意味をもつのかを考える。
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『紀要』第139冊 小泉龍人 「前4千年紀の西アジアにおけるワイン交易——ゴディン・テペからの一考察——」要旨
『紀要』第139冊

小泉龍人 「前4千年紀の西アジアにおけるワイン交易——ゴディン・テペからの一考察——」要旨

イランのゴディン・テペ遺跡で理化学的に確認されたワイン生産の証拠を引用しながら、紀元前4千年紀の西アジアのワイン交易を論考した。とくに、ワインの生産・流通・消費に焦点を絞り、ウルク期の物流について考察した。結果として、前4千年紀のワイン交易は、西アジアにおける祭祀ネットワークから交易ネットワークヘの推移を示すと推定できた。また、運搬手段としてウバイド期の舟形土製品やウルク期の車形土製品なども分析した。結論として、ウバイド期の物流では水上ルートが主体だったが、ウルク期には陸上ルートも開発され、複合的な運搬手段が用いられるようになった。そして、ウルク期に重層的な交易ネットワークが普及したと考えた。
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『紀要』第139冊 榊和良「『甘露の水瓶(Amrtakunda)』とスーフィー修道法」要旨
『紀要』第139冊

榊和良「『甘露の水瓶(Amrtakunda)』とスーフィー修道法」要旨

『甘露の水瓶(Amrtakunda)』は『生命の泉(Hnud al-Hayat)』としてアラビア語、ペルシア語に翻訳され、スーフィー道の指南書として用いられ、さらに、シャッターリー教団に属するムハンマド・ガウス・グワーリヤリーにより敷衍増広されたペルシア語訳『生命の海(Bahr al-Hayat)』の形でも広く伝搬した。原作の主題は、イスラーム的解釈を加えてベンガル・スーフィー文学に踏襲され、後代のインド・スーフィー修道論に受け継がれていった。『甘露の水瓶』の翻訳の伝播を伝える文献資料群は、マントラやヤントラを伴ったタントラ・ヨーガの儀礼、観想法や予兆学のイスラーム的受容と変容の姿を示す証拠である。
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『紀要』第139冊 井坂理穂「Writing of History : the Notion of Gujarat and the Gujaratis in the Late Nineteeth Century」 要旨
『紀要』第139冊

井坂理穂「Writing of History : the Notion of Gujarat and the Gujaratis in the Late Nineteeth Century」 要旨

本稿は、19世紀後半のインド西部・グジャラートの都市エリート層の問で起こった「グジャラート史」を再構築する動きに注目し、この動きに関わった人々の構成や、彼らの目的意識・彼らによって描かれた歴史記述の特徴を分析した。同時代のインドでは、各地の知識人が、イギリス統治の文化的影響を受けながら、それまでに書かれてきたような王朝史ではなく、「国」や「地域」の歴史を描くべきであるとの主張を展開していた。クジャラートでこうした動きの中心となったのは上位カースト・ヒンドゥーの知識人であったが、そのことはこの地域で出された歴史記述の中の時代区分や、歴史上の事件・人物の解釈や評価に、様々な形で影響を与えている。この時代に形作られたグジャラート史の大枠は、20世紀以降の歴史記述の中に踏襲され続けた。
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『紀要』第139冊 金鳳珍 「鄭観応の開明思想:その文明論的な解釈」」 要旨
『紀要』第139冊

金鳳珍 「鄭観応の開明思想:その文明論的な解釈」」 要旨

鄭観応(1842-1922)は「洋務」論者であると同時に「変法」論者である。また「西体」論者であるとともに「中体」論者である。しかも「東道」論者である。要は、彼の開明思想の中には「近代と伝統」が混在している。という前提で、彼の「洋務、変法、束道」論を考察する。そのさい、伝統と近代との化学反応、異種交配の現象を、「文明論的視点』に基づいて分析する。この文明論的視点は、単線的な進歩史観や「伝統=特殊、負;近代=普遍、正」といった二分法を捨象し、各国の歴史や諸文明には固有の発展様式や「特殊普遍、正負」の両側面が混在するという認識に基づく。
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『紀要』第139冊 新谷正彦 「タイとインドネシアの経済発展化の農業部門における過剰就業」 要旨
『紀要』第139冊

新谷正彦 「タイとインドネシアの経済発展化の農業部門における過剰就業」 要旨

タイとインドネシア両国の農業部門における低所得の原因を、農業部門における労働の過剰就業に求め、その存在の数量的確認を試みた。
まず、両国の農業部門の生産関数をお計測した。その労働の生産弾性値を用いて労働の限界生産物を推定した。
次に、労働の限界生産物の推定値と賃金率とを比較することにより、両国の農業部門における過剰就業の存在を確認しれ
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『紀要』第139冊 菅谷成子 「18世紀中葉フィリピンにおける中国人移民社会のカトリック化と中国系ティーンの興隆:——「結婚調査文書」を手がかりとして——」要旨
『紀要』第139冊

菅谷成子 「18世紀中葉フィリピンにおける中国人移民社会のカトリック化と中国系ティーンの興隆:——「結婚調査文書」を手がかりとして——」要旨

スペインのフィリピン植民地支配は、カトリシズムの布教と護持を支配の正統性原則としていたが、18世紀中葉に至るまでは、中回人移民は居住の要件としてカトリシズムの受容が求められたわけでは左かった。しかし、18世中葉のアランディア総督がカトリシズムの受容を居住の要件としたことを契機に、中国人移民社会は、カトリック教徒からなる定住型の社会に変容し、彼らと現地女性との結婚から混血の中国系メスティーソが生まれる母胎となった。本稿では、マニラ大司教座文書館所蔵の「婚姻調査文書」をもとに、当時の中国人移民が故郷との関わりを保持しつつも現地女性と婚姻関係を結んで現地化していく過程を具体的に明らかにし、これをスペイン領フィリピンの歴史的文脈に位置づけた。
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