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【第166回】戦後日本と「新しい女性」/’New Women’ in the Post-War Japan

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香港大学文学部日本研究学科より中野嘉子氏をお迎えし、第166回目の東文研・ASNET共催特別セミナーを開催しました。

本セミナーは、2017年5月20日(土)の午後、科研「「新しい女性」とアジアの近代―情動にみる思想・価値観の形成過程の比較研究」(代表:大東文化大学 山口みどり)と東洋文化研究所、東京大学日本・アジアに関する教育研究ネットワークの共催で開催された。

はじめに、科研代表の山口みどり氏(大東文化大学)が、プロジェクトの内容を紹介した。その目的は、1890年代の英米に始まる「新しい女性」現象に触発されて、20世紀初頭以降のアジア諸地域で、「近代的で自立した存在」としての「新しい女性」像が出現し、変容を遂げていった状況を明らかにすることである。その際、とくに「情動」をキーワードとして、歴史的文脈や個々人の感情に着目し、アジアの近代と女性というテーマに新たな視角をもたらすことを目指している。

今回のセミナーでは、香港大学文学部日本研究学科より中野嘉子氏をお迎えし、戦後日本という場における、日米の「新しい女性」像の形成と交わりについてお話いただいた。1953年、戦後初の国際線定期便就航に向けて準備を本格化していた日本航空は、客室乗務員教育のために、米ユナイテッド航空から一人の教官を招聘した。彼女の名前はアリス・アトウッド(1926-1994)。田舎町の出身で教育大学にて学んだアトウッド氏は、1947年にスチュワーデスになった。女性の初婚平均年齢が20歳ほどの当時、スチュワーデスは通常、2、3年働いた後に結婚退職するものであった。未婚で日本にやってきた27歳のアトウッド氏は、国際線勤務の準備のために彼女を迎えた26人の日本人スチュワーデスとともに、「新しい女性」であった。中野氏は、両者の出会いを歴史的に位置づけるとともに、女性たちの言葉として残されたものを手がかりに、「新しさを生きていた」彼女らがさまざまな場面で抱いた感情を探った。またアトウッド氏のように、いくつもの偶然が重なることで、結果的にパイオニアとなった女性たちがいたことを指摘し、新しい女性史とは、男女という社会通念にしばられずに活躍できる場所(あるいはただ居ることのできる場所)を探す女性たちがつくり出した歴史であると述べた。

日米の「新しい女性」の出会いや、それぞれが互いに向けたまなざしについて、コメンテーターの高媛氏(駒澤大学)は、日米の関係が対等ではなかった1950年代当時、両国の「新しい女性」たちのあいだの関係性もまた、対等ではなかったことを指摘した。また、日本側の「新しい女性」の誕生にはジェンダー・ポリティクスの他に、エスニック・ポリティクスの影響があったと述べた。高氏の専門である戦前の満洲旅行史に目を向けたとき、パラレルな現象として、南満洲鉄道株式会社(満鉄)経営の超特急国際列車「あじあ号」でのロシア人ウエイトレス11名の配置という出来事があった。国際列車のイメージづくりのために、彼女らが訓練を受けて、日本語と英語で、日本人旅行者や外国人乗客に向けたサービスを行っていたこと、とくにその外国人的な外見(白系ロシア人性)が重要視されていたことが紹介された。

フロアを含めた質疑応答では、戦後の日本航空のイメージ戦略においてスチュアーデスの外見(キモノ姿)が果たした役割や、その歴史的文脈、それを着た女性たちの個人的感情などが話題に上った。30名近くの参加者とともに、大変充実した、楽しい午後を過ごすことができた。(報告:後藤絵美)

日時/Date 2017年5月20日(土) 14:30-17:00
May 20 (Sat), 2:30-5:00 p.m.
会場/Venue 東京大学東洋文化研究所3階第一会議室
Room 303, Institute for Advanced Studies on Asia, The University of Tokyo
プログラム/Program 14:30  趣旨説明: 山口みどり(大東文化大学)

14:40  講演: 中野嘉子 (香港大学)

「1953年、羽田に降り立った女性教官~27歳のアメリカ人と37人の日本人客室乗務員」

15:30 コーヒーブレイク

15:50 コメント: 高 媛 (駒澤大学)

16:00 質疑応答

17:00 閉会

講演者/Speaker 中野嘉子(香港大学文学部日本研究学科准教授)
Yoshiko Nakano (Associate Professor, Department of Japanese Studies, School of Modern Languages and Cultures, Faculty of Arts, The University of Hong Kong)
要旨Abstract 1953年8月10日の深夜、羽田空港のタラップにアメリカ人女性がひとり降り立った。アリス・アトウッドさんは、ベテラン「スチュアデス」で27歳。戦後初の国際線定期便就航に向け、準備を本格化していた日本航空が、ユナイテッド航空から招聘した客室サービスの教官だった。それから8ヶ月間に渡り、彼女は日本航空の男女37名の客室乗務員を徹底的に指導する。同時に、鋭い観察眼で日本社会を見つめ、アメリカのプレスにコメントも残している。新しい日本人女性を育てたアトウッドさんは、新しいアメリカ人女性でもあり、未婚でエアラインの仕事を42年間続けた。彼女の見た日本の価値観、そして異文化間でのその揺らぎと戸惑いを追う。
使用言語/Language 日本語/Japanese
問い合わせ /Contact kakennewwomen[at]gmail.com

主催: 科研「新しい女性」とアジアの近代―情動にみる思想・ 価値観の形成過程の比較研究」(代表:山口みどり)

共催: 東京大学 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク(ASNET)、東京大学 東洋文化研究所