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第11回東文研・ASNET共催セミナー「溶け合うアラビア語詩の形:西アジアから西アフリカへと広がる広域知的連関網」

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【報告】第11回東文研・ASNET共催セミナー
「溶け合うアラビア語詩の形:西アジアから西アフリカへと広がる広域知的連関網」

第11回東文研・ASNET共催セミナーが9月9日(木)に開催されました。
以下、報告させていただきます。

日時:9月9日(木)午後5時~6時
場所:東京大学東洋文化研究所 1階ロビー
テーマ:「溶け合うアラビア語詩の形:西アジアから西アフリカへと広がる広域知的連関網」
報告者:苅谷康太(日本学術振興会、特別研究員PD)

 

発表要旨

 本発表では、地域研究の視座からアラビア語詩の創作という知的営為を観察することで、西アジアから北アフリカ、イベリア半島、サハラ沙漠西部、そしてサハラ以南アフリカ北西部へと広がる広域知的連関網の姿を描き出そうとした。そして、連関網の結節を示す指標として、標題にあるような詩の「形」に着目した。
 具体的には、セネガルのイスラーム神秘主義教団(スーフィー教団)であるムリッド教団の開祖アフマド・バンバ(Aḥmad Bamba, 1927年歿)の韻文作品、およびアフマド・バンバにとっての重要な知的源泉であったサハラ沙漠南西部のイスラーム知識人、ムハンマド・アル=ヤダーリー(Muḥammad al-Yadālī, 1753年歿)の韻文作品を主たる分析対象とし、そこに見出される様々な詩の形の断片とそれらの互いの関係性を見ていくことで、アラビア半島起源の古典アラビア語詩やイベリア半島起源のムワッシャフ、サハラ沙漠西部起源のレグナなどといった多様な詩の形式が西アジアから西アフリカにまで広がる知的連関網を通じてこの広大な地域を巡り、それぞれの原形を完全にはとどめることなく溶け合っていく様相を確認した。更に、事例研究としての本発表の内容を敷衍し、地域研究における地域間連関網の把握の重要性や、複数の具体的な連関網を多層的に積み重ねていくことで、それらの連関網の中に位置づけられた特定地域の状況をより鮮明に把握できる可能性についても言及できた。
 また、質疑応答の時間には、西アフリカの言語状況をどのように理解すべきか、他言語の詩の形式からの影響を考慮する必要はないのか、知的連関網を介した影響関係は双方向的であるのか、広域知的連関網の把握と特定地域の研究とは如何なる関係で結びつくのか、他著者の著した散文作品を韻文化するというアフマド・バンバの営為は如何なる動機によっていたのか、彼の詩はどのような人々に受容されているのか、といった御質問・御指摘から、発表者の今後の研究の展開にとって極めて意義深い議論を行うことができた。
[苅谷康太]

 

次回の第12回東文研・ASNET共催セミナーは9月16日(木)17時より、開催されます。
http://www.asnet.u-tokyo.ac.jp/node/6950
多くの皆様のご参加をお待ち申し上げております。