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第13回東文研・ASNET共催セミナー「オスマン立憲政の諸問題:比較史の観点から」

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【報告】第13回東文研・ASNET共催セミナー
「オスマン立憲政の諸問題:比較史の観点から」

第13回東文研・ASNET共催セミナーが9月30日(木)に開催されました。
以下、報告させていただきます。

日時:9月30日(木)午後5時~6時
場所:東京大学東洋文化研究所 大会議室
テーマ:「オスマン立憲政の諸問題:比較史の観点から」
報告者:藤波伸嘉(日本学術振興会特別研究員PD)

 

発表要旨
本発表では歴史学の立場、特に比較憲政史的な観点からオスマン立憲政の諸相を分析した。

まず立憲政及び立憲主義に関わる理論的枠組みをまとめた上で、前近代以来のオスマンの帝国的編制を確認し、
更に続いて近代オスマン史上、国民統合及び憲政運用との関係で争点化した諸問題を整理した。
その中でも特に重要なのが、国民統合主体の二元性、具体的には「平等」の解釈をめぐる問題である。
1908年の青年トルコ革命に引き続く第二次立憲政、既にオスマン知識人の間では、
議会主義的な立憲君主制や国民の「平等」を追求すべきことについて一致した賛同が見られた。
だがムスリム・非ムスリムの対立は立憲主義解釈の形を取って表出する。
前者が共和主義的な「公益」重視の立場から政治的領域における国民個々人の平等を強く求めるのに対し、
後者は、文化的・宗教的独自性擁護を求める共同体主義的見地から「宗教的特権」死守を図る。
しかしこの問題の帰趨も権力政治の推移に左右された。
その背景には、国政全体の立憲化に伴い、正教徒共同体内政界でも帝国議会に議席を持つ政党勢力が伸長したことを受け、
国政と共同体内政界の両次元における権力闘争が系列化・連動するようになったという事情が存在した。
この事実は、国民統合及び憲政運用をめぐる種々の理論的難題すら、
政治的に解決される可能性を有したことを示す一つの徴候だったと見做すことができよう。

質疑に際しては、ムスリム・トルコ人の立憲主義解釈はどのような意味で共和主義的と言えるのか、
スルタン=カリフ及び世界総主教が主張した宗教的普遍主義は領域的に限定された主権国家内部の国民統合に際して
如何なる意味で問題化したのか、
国政及び正教徒共同体内政界の系列化・連動の局面は具体的にどのような政治過程において実現したのか、
第一次立憲政期と第二次立憲政期との間での立憲思想、特にムスリム・非ムスリムの「平等」をめぐる見解に如何なる相違、
あるいは発展が見られたのか、などの諸点について議論を行なうことができた。
[藤波伸嘉]

 
 

次回の第14回東文研・ASNET共催セミナーは10月7日(木)午後5時より、東文研1階ロビーにて開催されます。
http://www.asnet.u-tokyo.ac.jp/node/6968
多くの皆様のご参加をお待ち申し上げております。