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第14回東文研・ASNET共催セミナー「文学の逆遠近法:比較という方法の可能性」

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【報告】第14回東文研・ASNET共催セミナー
「文学の逆遠近法:比較という方法の可能性」

第14回東文研・ASNET共催セミナーが10月7日(木)に開催されました。
以下、報告させていただきます。

日時:10月7日(木)午後5時~6時
場所:東京大学東洋文化研究所 大会議室
テーマ:「文学の逆遠近法:比較という方法の可能性」
報告者:内藤まりこ(日本学術振興会特別研究員)

 

発表要旨
 本報告は、現在、諸分野の研究における対象分析の方法として積極的に採用されている比較という営為に注目し、
比較の方法が私たちにどのような新しい研究の視野をもたらすのかを文学研究の文脈において検討したものである。
まず、19世紀に成立した比較文学研究が現在に至るまでに打ち出した代表的な三つの方法を取上げ、
それらが成立した歴史的背景や目的を紹介し、それぞれの方法の問題点を確認した。
そして、現在は、非ヨーロッパ地域の文学や女性や大衆の文学等、
従来は比較の対象とされてこなかった文学作品を比較の俎上へと持ち込むことで、
既存の比較の枠組みの再編成が試みられていることを指摘した。
 次に、小津安二郎による映画『宗方姉妹』(1950)と田壮壮による映画『春の惑い―蘇州恋歌』(原題『小城之春』、2002)を取り上げ、
新しい比較の方法の可能性を検討した。両作品はそれぞれ異なる原作を忠実に踏まえるが、
ある場面で登場人物が同じ歌をうたうことに注目し、『春の惑い』がそれ以前にできた『宗方姉妹』の影響を受けていることを指摘した。
さらに、『春の惑い』と『宗方姉妹』との影響関係を介して、『春の惑い』の原作である映画『小城之春』(費穆、1948)と
『宗方姉妹』との連関を解き明かし、製作された時期も地域も異なる直接の影響関係のない二つの作品が、
第二次世界大戦後という同時代性を背景として共通するテーマに取り組んでいたことを示した。
線状的な時間の流れに則り、古い作品からの新しい作品への影響を論じる既存の比較文学研究の枠組みに対して、
新しい作品を踏まえることで初めて見えてくるような古い作品の解釈を検討することを「逆遠近法」の比較文学と称し、
新しい比較の方法の可能性として提示した。
 質疑応答では、本報告で示した「逆遠近法」の方法に関して、比較文学の方法に時間意識を持ち込むことの問題点や、
『宗方姉妹』と『春の惑い』の原作同士の影響関係の有無や、当時の時代状況などについての貴重なコメントを頂戴した。 
[内藤まりこ]