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第4回東文研・ASNET共催セミナー「コーヒー豆の不平等-ベトナム・コーヒーの美味しい飲み方-」

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【報告】第4回東文研・ASNET共催セミナー
「コーヒー豆の不平等-ベトナム・コーヒーの美味しい飲み方-」

6月10日(木)17時から18時過ぎまで、第4回目の東文研・ASNET共催セミナーが東文研1階ロビーにて開催されました。
コーヒー豆を通して格差・不平等を考えるという面白いテーマで、
皆でコーヒーゼリーやビスコッティーを頂き、またいろんなものをコーヒーに入れて試飲しつつ、
ASNET副ネットワーク長である池本幸生教授 のお話を伺いました。
以下、盛会の模様を報告させていただきます。長いですが、最後までお目を通して頂ければ幸甚に存じます。


画面に映っているのがコーヒーの実です。初めてみましたが、
普段目にする、焙煎されたコーヒー豆からは想像もつかないものだと思いました。

【発表要旨】
 ベトナムは世界第2位のコーヒー輸出国であることは、ほとんど知られていない。
それはコーヒー豆の中でも味が劣るとされている「ロブスタ」という品種を生産しているからである。
それは、ジャマイカのブルーマウンテンのようなブランドと同じように扱われることはない。
しかし、ベトナム・コーヒーは缶コーヒーやインスタント・コーヒーの原料としてたくさん使われ、私たちはそれを飲んでいる。
一方、ベトナム国内では、「不味い」とされるベトナム・コーヒーを如何にして美味しく飲むかという工夫がなされてきた。
コンデンス・ミルクを入れたり、ラム酒を入れたり、・・・。
その様々な飲み方を紹介し、試飲しながら、不平等や格差についても考える。

【アラビカ種とロブスタ種】
 コーヒーの品種として主要なものはアラビカ種とロブスタ種である。
アラビカ種は、世界のコーヒー生産の3分の2を占め、高地で栽培され、気象条件や病害虫の影響を受けやすい。
一方、ロブスタ種(正確には「カネフォラ種」)は、低地でも栽培でき、病害虫の影響を受けにくい。
アラビカ種の特徴は酸味と香りにあり、一方、ロブスタ種の特徴は苦味とコクにある。
そのため、ロブスタはインスタント・コーヒーや缶コーヒーなどに多く用いられ、産地名が表に出ることはほとんどない。
だから、ロブスタの大生産国であるにもかかわらず、ベトナムの名前はコーヒー生産国としてほとんど知られていない。
知られるとしたら、1990年代にコーヒーを大量に輸出するようになり、
世界のコーヒー価格を暴落させ、非難された国としてかもしれない。

【コーヒー豆の格差】
 格差とは「格」の差である(気温差など、客観的な差は「較差」と書く)。
アラビカとロブスタはそれぞれ「酸味と香り」と「苦味とコク」に特徴があり、性質の異なるものである。
しかし、ロブスタは「格下」と見なされる。味よりも、低価格と量が重視される。
ベトナムはそれに応じ、安いものを大量に生産しようとする。生産者にとって自慢なのは、いかに生産性が高いかである。
他の国が1ヘクタール当たり1トンと目標としているのに対し、ベトナムは1ヘクタール当たり2トン、3トンという数字を誇る。
その際、品質は犠牲となる。良い品質のものを作っても、価格に反映されないから、
農民には良いものを作ろうとするインセンティブが働いていない。その結果、過剰生産を引き起こし、他の生産国から非難される。
これは「格下」と見なされたモノの限界を示しているのだろうか?
一旦、「格下」と見なされると、この悪循環に陥っていくのだろうか?

【コーヒー豆の格差と不平等】
 品質の劣るベトナムのロブスタは「不味いコーヒー」として定着してしまったように見える。
ベトナムのロブスタは「不味いコーヒー」なのだろうか?
美味しいロブスタ(プレミアム・ロブスタ)というようなものは可能なのだろうか?
 最初にコーヒーの木をベトナムに持ち込んだフランス人が、自分たちで飲んでいたコーヒーは不味かったのだろうか?
かつてフランス人の農園で働いていたエデ族の人たちはどんなコーヒーを飲んでいるのだろうか?
調べてみると、彼らが飲んでいるコーヒー豆は実に美しい。丁寧に処理され、選別されている。
そして、「100%ピュア」なコーヒーを飲ませてくれる。コーヒーの入れ方もまるで茶道のように礼儀正しい。
彼らは「美味しいロブスタ」の飲み方を知っている。
 「100%ピュア」を強調するということから分かるように、普通は焙煎時にバター、砂糖、カカオなど、様々なものが混ぜられる。
そこにコンデンス・ミルクをたっぷり入れると、濃厚なチョコレートのような飲み物が出来上がる。
それで、嫌な味は消されていく。生産国の飲み方はどこも似ている。
彼らは、質の良い美味しいコーヒーを輸出した後に残った質の悪いコーヒーを精一杯、美味しく飲む工夫をしてきたのである。
先進国の人たちが、生産国のコーヒーは「不味い」と言って馬鹿にする前に、
このような先進国と生産国との間の経済力の差による不平等を理解しておくべきである。
「加害者」である我々は「被害者を責める」ようなことをしてはいけないのである。
[池本幸生]

 
左奥に見えているのが生のコーヒー豆です。
色んなものを入れて、試飲しました。

次回は6月17日(木)17時から古澤拓郎准教授に、人類生態学のお話をして頂きます。
多くの皆様がご参加下さいますことを願っております。