ASNET -東京大学 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク--

ASNET関連セミナー

第8回東文研・ASNET共催セミナー「現代チベット研究と代替民族誌の問題」

  • 報告

【報告】第8回東文研・ASNET共催セミナー
「現代チベット研究と代替民族誌の問題」

第8回共催セミナーが7月8日(木)に開催されました。
以下、盛会の様子をご報告させていただきます。

日時:7月8日(木)午後5時~6時
場所:東京大学東洋文化研究所 1階ロビー
テーマ:「現代チベット研究と代替民族誌の問題」
報告者:大川謙作(日本学術振興会、特別研究員)

 

セミナー内容
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が外国を訪問する際には、訪問国政府がどのような対応をするか、
中国政府はどのような反応を示すか、各国のニュースで大きく報道されます。
今年2月の訪米の際には、アメリカが中国に配慮して私的な面会として扱い、それに対して様々な反応があったということ、
記憶に新しい方も多いと思います。
こうしたチベットの敏感性・複雑性の背景としての、チベット文化圏の多様性を、改めて認識させられる御報告でした。

チベット文化圏は複数の現代国家にまたがる広大な領域を形成しており、
この多様性に応じて、現代チベット研究にも様々な潮流があるそうです。
現地調査を通じて、その土地の多様性や普遍性を研究する人類学においても、
こうしたチベットの特性が反映されているそうです。

御報告では、このうち、代表的な二つの潮流を取り上げられました。
チベット系住民をチベットの代表と見なし、その社会を研究する「シェルパ中心主義的研究」と、
中央チベットをチベットの代表と見なし、研究対象とする「ラサ中心主義的研究」です。

「シェルパ中心主義的研究」は、ネパール・ヒマラヤあるいは
インド・ヒマラヤのチベット系住民の社会こそがチベット社会の典型であるとみなして、
それらの地での現地調査をもとにチベット社会の特質を明らかにしようとするものだそうです。

他方、「ラサ中心主義的研究」では、ラサと中央チベットをチベットの代表と見なしつつも、
チベット本土での現地調査が困難であるため、現地調査の代わりに、
再構成的民族誌(難民などへの聞き書きによる歴史の再構成)によるチベットの研究を行うのだそうです。
そのためこの「ラサ中心主義的研究」では、手法としては難民コミュニティーでの調査などが行われてきたということです。

御報告では、様々な人類学者の研究スタイルやチベット文化圏のとらえ方を紹介されていました。
チベットでの現地調査が困難であることを理由に、インドやネパール研究に関心を移した学者、
また、シェルパこそがチベットを代表するものであり、ダライ・ラマやラサはむしろ、チベットの特殊な部分だとみなす学者など。
更に、現代のチベット研究においては、シェルパ主義とラサ主義という人類学内部の対立のみならず、
人類学と政治学など、他の学問領域との対立も見られるそうです。

 

多くの人を惹きつけるテーマであるだけに、
人類生態学、歴史、経済、国際政治・・様々な分野の専門家が御参集下さり、
時間をオーバーして質疑応答が行われました。

混沌とした研究動向にも関わらず、人類学者達にとって研究の対象であり続けるチベット文化圏には、
それだけ、解明されるべき様々な問題を存在するのだと、素人ながらに思いました。
複数の研究潮流が存在し、各潮流間の相互対話が乏しい現状の中で、
大川さん御自身は、ラサの御研究を進めていらっしゃるそうです。

次回の第9回東文研・ASNET共催セミナーは9月16日(木)17時より、中国・雲南の文化に関するお話を予定しております。
画像等を用いて、英語でお話頂きます。
詳細が決まり次第、案内を掲載致しますので、是非御参加下さい。
[安田佳代]