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第30回東文研・ASNET共催セミナー「東南アジア国際関係における規範をどのように理解するか?」

  • 報告

【報告】第30回東文研・ASNET共催セミナー
「東南アジア国際関係における規範をどのように理解するか?
-外交当事者の見るASEANと研究者の見るASEAN-」

第30回東文研・ASNET共催セミナーが2011年6月2日(木)に開催されました。
以下、報告させていただきます。

日時:2011年6月2日(木)17:00-18:00
場所:東京大学東洋文化研究所 1階ロビー
テーマ:「東南アジア国際関係における規範をどのように理解するか?-外交当事者の見るASEANと研究者の見るASEAN-」
報告者:湯川拓(日本学術振興会特別研究員PD)

報告要旨
 本報告では東南アジア諸国連合(ASEAN)に関与する外交アクターがどのようなことを考えているのか、という当事者の頭の中を調べてみた結果をお話しさせていただいた。具体的には、ASEAN研究において重要な概念である「ASEAN Way(ASEAN方式)」という概念がどのような過程において生成されてきたのか、という点に絞ってその概念の軌跡について発表させていただいた。
 「ASEAN Way」は内政不干渉原則やコンセンサス方式など、加盟国の主権を尊重するような方式を指す。よくある解釈としては外交当事者間の長年の折衝の内に、規範が収斂する形で「ASEAN Way」という概念が析出されてきたとされている。長年の相互作用によってASEANという機構のルールが定まったという、自然な解釈ではある。
 それに対し、本報告では当事者の言説分析を行った。その結果、「ASEAN Way」とは実際には「加盟国の主権尊重を第一にするのか、人権や民主主義といった理念を重視するのか」という論争の中で現れてきた概念であったことを示した。すなわち、前者の主権尊重を墨守しようとするASEAN内の保守派が、自らの主張を正当化するためのディフェンシブな概念として用いたのが「ASEAN Way」だった。例えば、「内政不干渉原則こそがASEAN Wayなのだから、それに反してはいけない」という具合である。
 つまり、「ASEAN Way」もしくは「ASEANのやり方」とは、団結が深まっていく中で立ち現われてきたものではなく、規範をめぐる激しい論争の中で定位されていったということになる。本報告が東南アジア国際関係あるいはASEANという地域機構を見る際の一助となればと思う。
[湯川拓]