「ジャポニスムかアジアニズムか-異文化交渉史研究の再考」
第35回東文研・ASNET共催セミナーが2011年9月15日(木)に開催されました。
以下、報告させていただきます。
日時:2011年9月15日(木)17:00-18:00
場所:東京大学東洋文化研究所 1階ロビー
テーマ:「ジャポニスムかアジアニズムか-異文化交渉史研究の再考」
報告者:鵜飼敦子(東京大学東洋文化研究所特任研究員)
【報告要旨】
本報告では、2010年の上海万国博覧会の世界博覧館で展示された「セルヴィス・ルソー」やエミール・ガレの作品に対する個人的な感想を出発点とし、万国博覧会が美術というカテゴリーにどのような影響を与えたのかについて、現在の関心事や進行中の調査報告を交えながら、今後の研究に関する方向性を示した。
「セルヴィス・ルソー」は陶磁器とガラス製品の製造、販売をおこなっていたフランスワ=ウジェーヌ・ルソー(1827-1890)が、1856年に初めて日本の陶磁器の包み紙となっていた『北斎漫画』を発見したと言われているフェリックス・ブラックモン(1833-1914)に図案を依頼してつくられた食器セットである。これらの食器は、日本では北斎漫画や広重の図案から一対一の対応関係が指摘されているもので、ジャポニスム研究の一例としてあげられてきた。同じく『北斎漫画』からのモティーフ転用が見られるエミール・ガレの『魚濫観世音』(1814年)、『鯉文花器』(1878年)も、ジャポニスム研究では「西洋」にみられる日本の影響の一例として頻繁に引き合いにだされる作品である。ここで使われている鯉の模様、魚濫観世音などは、元をたどれば日本特有のモティーフとはいえない。西洋の作品に使われた日本美術の源泉探索をすることは、「ジャポニスム研究」にとって必要不可欠なことではあるが、それらのモティーフが「日本特有のもの」であると決めつけて「日本」が「西洋」におよぼした「影響」を語ることには、魅力がなくなってしまうのではないかという疑問を提示した。
「シノワズリー」でも「ジャポニスム」でもなく、「アジアニズム」とでもいうべきなのではないのか?今日、ジャポニスムとして「西洋が東洋に影響をおよぼした」というような言説が根強く残っているのは、西洋対東洋という図式と「日本の研究者のいわば過剰な自己意識」の産物といえるのではないのだろうか?これまでのジャポニスム研究の問題を解決するために、アメリカ、中国といった第三の軸をおいて二項対立を脱構築する必要性がある。また「日本美術」「西洋美術」あるいは「アジア」という枠組み自体もそうであるが、地域や国を枠組みとして美術を囲い込まないことを提案した。
万国博覧会や外からの視点を通して、「日本美術」さらには「日本的なるもの」をとらえたいという将来の展望を紹介した本発表に対する質疑応答では、「ジャポニスム」という名称は剽窃を正当化するための道具だったのではないかという興味深い意見、「日本美術」や日本的なイメージを受容する側か発信する側どちらの観点で研究をするのかという質問、今回の発表は研究の出発点の議論であるため、今後それぞれの言語での言説を分析する必要があるだろうという指摘をいただいた。
(文責:鵜飼敦子)