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第47回東文研・ASNET共催セミナー「ロシア帝国のユダヤ人がパレスチナを志向したとき」

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【報告】第47回東文研・ASNET共催セミナー
「ロシア帝国のユダヤ人がパレスチナを志向したとき」

第47回東文研・ASNET共催セミナーが2012年4月12日(木)に開催されました。
以下、報告させていただきます。

日時:2012年4月12日(木)17:00-18:30
場所:東京大学東洋文化研究所 大会議室
報告者:鶴見太郎氏(東京大学・明治学院大学非常勤講師)

【開催報告】
 本報告は、今年1月に刊行された拙著『ロシア・シオニズムの想像力』の内容紹介である。シオニズムの母体となっていたロシア帝国において、なぜ一部ではあれユダヤ人がパレスチナという地に目を向けたのか。本書はその問いに答えるものであるが、やや迂回戦術を取っているように見えるかもしれない。というのも、本書はパレスチナに行かなかった(行こうとしなかった)シオニストを扱っているからである。ただ、そうしたシオニズムの存在は当時帝国という場が健在だったという大前提に鑑みれば、それほど不思議なことではない。大胆に単純化するならば、ロシア・シオニストが模索していたのはロシア帝国内での地位向上である。その一つの手段としてシオニズムはあった。パレスチナに拠点を持つことで、尊厳あるネーションとしての認知を得ようとしたのである。そして、それはまたユダヤ性について様々な定義を押し付けられてきた/語らされてきた歴史への反駁でもあった。
 会場からは、「民族」という言葉に関して質問が複数出た。この言葉は、翻訳によって意味がずれ、また各言語においても地域や時代、状況によって意味は変わる。シオニスト自身は、当時のロシア東欧地域において比較的標準的だった自己意識と言語文化の組み合わせに加え、社会的な諸条件によっておのずと構築されていくものとして民族を考えていた。その他、シオニズムの地域による違いや、自由主義系ユダヤ人のロシア政府との関係性、シオニストが想定していた「ユダヤ人」の定義、世界のユダヤ人口の分布などに関して質疑応答がなされた。
[鶴見太郎]