「国家と対峙する宗教―アルジェリア・ウラマー協会におけるイスラームと政治」
第33回東文研・ASNET共催セミナーが2011年7月7日(木)に開催されました。
以下、報告させていただきます。
日時:2011年7月7日(木)17:00-18:00
場所:東京大学東洋文化研究所 1階ロビー
テーマ:「国家と対峙する宗教―アルジェリア・ウラマー協会におけるイスラームと政治」
報告者:渡邊祥子(日本学術振興会特別研究員DC)
報告要旨
第33回東文研・ASNET共催セミナー「国家と対峙する宗教―アルジェリア・ウラマー協会におけるイスラームと政治」が、2011年7月7日17時から18時にかけて、東京大学東洋文化研究所で行われた。
報告者の渡邊祥子(日本学術振興会特別研究員PD)は、最初に、北アフリカのアルジェリアの歴史を概観した。そして、独立(1962年)後のアルジェリアにおいて、イスラームと政治が密接なかかわりを持ってきたこと、1990年・91年にイスラーム政党が選挙戦で政権党を破って勝利した事件は、この文脈において起こったことを確認した。
次に、報告者は、アルジェリアがフランスの植民地支配下にあった時代に遡り、最初の近代的なイスラーム主義組織であるアルジェリア・ウラマー協会(1931年創設、アルジェリアの在野のウラマー=イスラーム知識人の連盟組織)を取り上げた。そして、ウラマー協会によるフランス政教分離法(1905年)のアルジェリア適応要求の主張の背景を分析する作業を通じて、国家に対峙する宗教運動が、どのような歴史的状況において現れたかを考察した。
ウラマー協会の政教分離法適応要求は、当時のフランスのイスラーム政策(国家による宗教実践の管理統制政策)に対する批判として出て来たものだった。さらに、宗教権威が政府から自律性を持つべきだというウラマー協会の主張は、フランス政府に対してのみならず、政府一般について行われたものだった。このことは、ウラマー協会がエジプトのウラマーに対する働きかけにおいても、ウラマー同士の国際連帯は、ムスリムの政府も含めてあらゆる政府の影響から自由な状況で実現しなければならないと発言していたことからも、理解できる。
独立後のアルジェリアにおいては、植民地時代のフランスのイスラーム政策と比較できるような、国家による宗教実践の管理統制政策が採用された。こうした「国家のイスラーム」に対抗する形で、国家に対峙するイスラーム運動が再び現れたのである。イスラーム主義運動の用いる言辞は、イスラームの思想的な伝統のみならず、歴史的な文脈に規定されている以上、政教関係の実態を分析した上で、その意味が評価されねばならない、と報告者は結論づけた。
質疑においては、植民地時代のウラマー協会の行った、政府からの宗教権威の自律性という主張は、イスラームという宗教の特徴に帰するものなのか、あるいは、他の地域との比較の観点から論じることができるのか、といった質問が会場からなされ、活発な議論が行われた。
[渡邊祥子]