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第50回東文研・ASNET共催セミナー「イランにおける現代美術-美術館が映し出す継続性」

第50回東文研・ASNET共催セミナー
「イランにおける現代美術-美術館が映し出す継続性」
‘Contemporary Art in Iran –Continuity through the eyes of the Museum’

下記の要領で第50回セミナーを開催いたしますので、ご案内いたします。
参加申し込みは必要ありませんので、奮ってご参加下さい。

The 50th seminar will be held as follows.
This seminar is open to the public without registration.

このセミナーは終了しました。以下の開催レポートをご覧下さい。

日時/Date:2012年5月24日(木)17:00-18:00
会場/Venue:東京大学東洋文化研究所1階 ロビー
Lobby, 1st Floor, Institute for Advanced Studies on Asia, University of Tokyo
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/access/index.html
報告者/Presenter:Yuki TERADA/ 寺田悠紀(日本学術振興会特別研究員/JSPS Research Fellow)
タイトル/Title:「イランにおける現代美術-美術館が映し出す継続性」/
‘Contemporary Art in Iran –Continuity through the eyes of the Museum’
 
報告要旨/Abstract
1979年のイスラーム革命によって、近代化を進めたと言われるパフラヴィー朝体制が崩壊した。革命前の「近代化」あるいは「西洋化」と、革命後の「イスラーム化」は相反したイメージと結びついて語られ、イスラーム化政策における視覚芸術の統制という側面ばかりが強調されてきた。しかし、1977年に設立されたテヘラン現代美術館は、現在でも革命以前に国内外から収集された近・現代美術作品を展示している。本報告では、テヘラン現代美術館のコレクションの形成と、その展示の変遷を辿りながら、今まで見過ごされることが多かった継続性を明らかにしていく。

Since the Islamic Revolution in 1979 overturned the Pahlavi regime in Iran, contrasted visual images have often been associated with the term, “modernization” and/or “Westernization”, and ‘Islamization’. Nonetheless, continuity of both exhibition and reception of certain visual images is seen in the Museum(s). This presentation, while introducing my current research, examines the foundation and the development of Tehran Museum of Contemporary Art to suggest the insight into the aspect of continuity.

お問合せ先:日本・アジアに関する教育研究ネットワーク(ASNET)
電話:03-5841-5868
e-mail: asnet[at]asnet.u-tokyo.ac.jp

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【開催報告/Report】


 本報告では、1977年に設立されたテヘラン現代美術館の成立とその変遷が映し出す継続性から何を読み取れるのかについて論じた。報告者は先ず、現代イランにおける視覚芸術の区分としての「現代美術」について、その発展の背景を概観した。1960年代以降に活躍したアーティスト達は、1940年代に始まったとされる「モダンアート運動」を独自性に欠けるものだとして批判し、イラン人に親しみやすいモチーフを探し、積極的に取り入れていく。同じく1960年代には、王室のイニシアティブによってミュージアムの建設が進み、公共の場としての博物館に工芸品や文化遺産を「展示」することで、対外的にも「イランの文化」が表象されていった。さらに、石油収入の増加という経済的理由からも、中東地域において最初の現代美術館となるテヘラン現代美術館建設が構想されるのに十分な条件が整っていたことが見受けられると言及した。
 次に、テヘラン現代美術館における国内・国外から集められた作品の「展示」について、1977年の開館から1979年のイラン革命を経てイラン・イスラーム共和国の管理下で再び開館し現在に至るまで、それぞれの時期に見られた特徴を挙げた。常設展や企画展の内容から、「展示」される作品がディレクターの意志と判断によって、また、美術館を訪れる人々の反応等が配慮されて選択されてきたことが読み取れることを説明し、パフラヴィー朝下のイランと、革命後のイランにおいて受容されてきた視覚芸術は対照的なものではなく、継続性が見いだせることを指摘した。
 最後に、美術館が映し出す継続性が何を意味するのか議論した。特に、イラン革命後のイスラーム化政策の下で、パフラヴィー朝が推進してきたと言われる「近代化」が「西洋的」であるとして否定されるなか、視覚を通して近代化されたミュージアムという空間と概念は受容されてきたことは注視されるべきだと述べた。質疑においては、「展示」を「見る側」としての観客がある作品を好んで受容するとき、ペルシア語においてどのような表現が用いられるのか、西洋の美術学校のカリキュラムが取り入れられた際に葛藤は見られなかったのかといった質問や、あらゆる表現が可能であるだけに、「現代美術」の定義を提示することが必要なのではないかというご指摘を頂いた。この場を借りて御礼申し上げたい。[Yuki TERADA/ 寺田悠紀]