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科目情報

ナショナリズムと文化財―朝鮮半島と日本―(アジア太平洋地域文化演習II)

外村大 /Masaru Tonomura

※本科目はオンライン講義に移行する可能性があります。オンライン参加のための会議室URL等は、UTASの本科目ページでご確認ください(会議室URLは更新される可能性がありますので、毎週の講義前にUTASを確認してください)。

授業の目標・概要/Course Objectives/Overview

 共通の歴史的記憶や誇るべき文化のシンボルとしてしばしば扱われる文化財は、近代国家の国民意識の統合を図るためにも用いられてきた。また、戦争や植民地支配で持ち出された文化財や、領土変更などを背景に複数の国家にその由来が関係している文化財については、それが「どの国民のものか」、「あるべき場所に返還すべきである」といった争いが生じることがある。
 しかし、もちろん、文化財それ自体がなにか対立を起す要因が潜在しているわけではない。逆に、優れた工芸品や美術品、長く伝えられた歴史的記録や建築物等々の文化財は、国籍や民族その他の属性を超えて、人類の営みのすばらしさを伝え、人びとを感動させるものである。それゆえ、むしろ、文化財の鑑賞や返還、寄贈、貸与などが、社会集団間の相互理解を促進し、友好的な関係を築くことに寄与することも多い。この授業では、こうした、文化財とナショナリズムとの関係を論じ、文化財をめぐる政策、市民社会における活用の望ましいあり方を考えていく。
 その際、この授業では、朝鮮・韓国の文化財に焦点をあてることとしたい。周知のように、日韓両国民の間では、一部においてナショナリズムを刺激しあい、感情的対立が生み出されている。そうした対立は、文化財をめぐる問題とも無縁ではない。植民地期の支配・被支配の関係の中で、朝鮮半島にあった古美術品等が、持ち出されたことをどうとらえるか、その返還を進めるか、否か、返還するとしてどのような方法、手続きで行うべきか等は、議論の対象となってきた。さらには、日本にあった朝鮮由来とされる文化財が韓国人窃盗団によって盗まれ、それが日本に戻されないということが問題にもなっている。そうしたなかでも、植民地支配を清算し、日韓・日朝の人びとの良好な関係を築くために、文化財返還等の取り組みを進めている人びとも存在する。そうした諸点に注目することで、文化財とナショナリズムの関係について理解を深め、問題の所在を明確化していくことが可能になるはずである。

科目番号/Course ID Number 31M220-1009S
31D220-1009S
分野/Field 総論
単位/Credit 2
場所/Venue 駒場14号館 605号室
授業時間/Semester/Time S1S2
火曜3限 Tue. 3rd
使用言語/Language 日本語 Japanese
授業予定/Schedule 1、 ガイダンス―文化財とナショナリズムを考える意義
 授業の概要と目標について説明し、参考にすべき文献の紹介や基礎的知識の確認、授業で扱う文献等について、説明を行う。
 
2、近代国家における文化財
 近代国家において文化財の管理や活用がどのように行われて来たか、それがどんな意味を持ってきたかを議論する。
参考文献:森本和男『文化財の社会史』彩流社、2010年
 
3、文化財返還をめぐる近年の状況
 フランスなどヨーロッパ諸国での旧植民地からの文化財返還要求とそれに対する対応の状況、国際条約との関係などを論じる。
 
4、植民地期朝鮮の博物館政策
 植民地期朝鮮での文化財の保護、朝鮮総督府の博物館政策と朝鮮民衆の反応を論じる。
 
5、植民地期朝鮮における日本人と文化財―浅川巧について
 日本人でありながら朝鮮の文化財について理解を示し、その保存や研究の活動を続けた人びとについて論じる。具体的には浅川巧を取りあげる。
参考文献:高崎宗司『朝鮮の土となった日本人 浅川巧の生涯』草風館、2002年。
 
6、植民地期朝鮮における日本人と文化財―柳宗悦と日本民藝館
 前回に続き、日本人でありながら朝鮮の文化財について理解を示し、その保存や研究の活動を続けた人びとについて論じる。具体的には柳宗悦を取り上げ、日本民藝館を見学する。
 
7、韓国への文化財返還問題の近年の動向
 植民地期に朝鮮から日本に持ち出された文化財については、戦後、日韓間の国交樹立交渉の際にも問題となり、近年も市民の間で返還実現の運動が取り組まれている。実際に活動に従事している市民を招いて近年の動向について教えていただき、議論を行う。
ゲストスピーカー:李洋秀氏
参考文献:五十嵐彰『文化財返還問題を考える』岩波書店、2019年
 
8、文化財問題をめぐる韓国の新聞記事の検討
 対馬の寺院から盗まれた仏像の問題など、近年、文化財をめぐって焦点化したことについて、韓国の世論の動向を把握する。具体的には、韓国のいくつかの新聞における論説などを日本語に翻訳し、それを読み、討論を行う。
 
9、文化財問題をめぐる報道と世論
 韓国および日本における日韓・韓日関係についての報道がどのように行われているのか、排他的なナショナリズムを防止するようにするにはどうしたらよいのか、報道の現場に携わっている方をゲストに招いて、お話しいただき、討論を行う。
ゲストスピーカー:韓国の新聞社の東京特派員等について調整中
 
10、朝鮮通信使関係の文化財の活用(静岡県職員の方など)
 日韓・日朝間の友好的な関係を示す歴史として、朝鮮通信使があり、それをもとにした市民の交流なども各地で取り組まれて来た。朝鮮通信使に関連する文化財の活用や、市民交流について、具体的な取り組みを進めている団体の関係者を招き、お話しをうかがって議論を進める。
ゲストスピーカー:関連自治体の担当職員の方と調整中。
 
11、在日朝鮮人と文化財―在日韓人歴史資料館の見学
 植民地期に渡日し、何世代にもわたって日本に暮らしている在日朝鮮人は異郷の中でも独自の文化を継承してきた。その営みの中で用いられてきた道具や記録も文化財となりうる。それらを収集してきた在日韓人歴史史料館を訪問、見学し、学芸員のお話しをうかがう。
 
12、北朝鮮にある文化財とその活用
 北朝鮮の歴史的建造物や遺蹟、そこから発掘された遺品などは、日本にいる者や韓国人にとっては、接しにくく、その情報も得にく。これについて、北朝鮮を訪問され、現地の研究者と交流されている方をお招きし、お話しいただいたうえで、討論を行う。
ゲストスピーカー:日朝交流に努めている市民の方と調整中。
 
13、まとめ
 授業全体を振り返って、ナショナリズムと文化財、朝鮮・韓国の文化財をめぐる問題について受講者全員で議論を行う。
履修上の注意/Notes on Taking the Course 近代の日朝関係史について、基礎的な通史を1冊以上読んだうえで受講することが望ましい。
キーワード/Keywords
教科書/Textbooks 特に指定しないが、授業で関連の論文や著書を紹介するので、各自の学習に活用すること。
参考書/Books for Reference 授業時間に紹介する。
授業の方法/Teaching Methods 教員が指定した文献を読み、受講生が報告、討論する授業のほか、ゲストとして招き、お話しをうかがって、議論を行う授業も予定している。
 
毎回の授業に関して、授業レポートを作成してもらいながら、授業に対する理解を深める。
学期の途中で、本授業の責任講師が招聘講師の授業の内容を整理し、履修者の間で、理解度を深め、論点を整理する時間を持つ。
オムニバス講義という形式で進め、毎回、論点を整理するコメントシートを配布し、成績評価に反映する。
成績評価方法/Method of Evaluation 毎回の授業に対するコメントの提出、および学期末レポートの提出、そして平常点(授業への積極性・貢献度)などを総合的に勘案して成績評価を行う。
その他/Others