報告書

イスラーム美術における空想動物の系譜と展開

11月8日に開催されました第4回研究会は、分担者・協力者6名の他にも多数の御参加をいただき、28名の出席者でもって盛会となりました。以下に、主幹のヤマンラール・水野美奈子先生の研究会総括と発表者のレジュメ(簡略版)を掲載いたします。よろしく御参照ください。

 

研究会総括

主題

イスラーム美術における空想動物の系譜と展開

日時

平成9年11月8日(土)

場所

東京大学文学部アネックス

参加者数

28名

発表者とテーマ(発表順)

村野浩(東海大学教授)

「鬼形図雑考―東方から見たサライ・アルバムの鬼形図」

堀内勝(中部大学教授)

「イメージとしてのラクダ」

小林一枝(早稲田大学非常勤講師)

「カルカッダン―犀」

桝屋友子(国立民族学博物館助手)

「イスラームにおける鳳凰―イルハーン朝の龍」

ヤマンラール・水野美奈子(東亜大学教授)

「龍ーセルジューク朝とイルハーン朝の龍」

コメンテーター

杉村棟(龍谷大学教授)

司会

ヤマンラール・水野美奈子

シンポジウム発表論旨:

 堀内、小林は実在の動物やその形態が展開して象徴的イメージが形成される過程を、桝屋、水野はイスラーム世界にとっては外来の鳳凰や龍という空想動物がイスラーム世界でいかなる形態と象徴性を有するようになったかを、村野はイスラーム世界の鬼形図に見られる諸要素と極めて類似したものが中央アジア、中国、日本に存在することを論じた。

提示された問題点は以下のように大別できる;

  1. 空想動物に見られる時代、民族、地域を越えた、偶発的とは考えられない共通の形態(図像)の伝播の問題。
  2. イスラーム世界においての空想動物は、支配者層や時代によってその象徴性が多様に変化する。

将来の研究への展望:

 空想動物表現の伝播経路の問題は空想動物の図像研究のさらなる綿密な実証を必要とし、象徴性の変容や多様化はイスラーム世界の中における民族的および時代的な解釈の究明を要する。これからの研究に大きなヒントを与えてくれる資料として、トプカプ宮殿美術館蔵のサライ・アルバム(H.2152,2153,2154,2160)がある。サライ・アルバムの研究は、トルコや欧米の研究者によって行われてきたが、東洋美術との関連においての本格的研究は杉村棟氏や僅かの研究者の研究に限られており、今後東洋美術との影響関係が更に明らかにされる必要がある。今後の共同研究の方針としてトプカプ宮殿美術館長 FilizCagman をはじめとするトルコ研究者と共にサライ・アルバムの詳細な研究をこのプロジェクトを通して開始したい。(報告者:ヤマンラール・水野美奈子)