用語解説1:モスク

モスクとは
モスクの種類
モスクの諸施設
モスクの機能
インドのモスクを見るにあたって...
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■モスクとは

 ムスリムに欠くことのできない儀礼である礼拝(サラート)は、墓や屠殺場などの不浄な場意外ならばどこでおこなってもよいとされる。モスクという英語は「平伏(サジャダ)の場」という意味のマスジドというアラビア語から派生した言葉である。本来の意味からすればモスクは、礼拝を行う一枚の絨毯でもよいわけであるが、一般にモスクといえば多数のイスラーム教徒が一緒に礼拝することの出来るイスラム寺院のことをさす。そしてモスクは、世界中どこでもメッカをめざす軸(キブラ)を基準に建設される。むろん実際の方向に関しては、少なからぬズレがみられるのが実情である。

■モスクの種類

 まず、モスクの種類をあげてみよう。毎週金曜日の正午の礼拝にさいしては、青年男子たる共同体の構成員は都市の金曜モスク(ジャーミー、インドではジャーマ・マスジド)にあつまり、導師(イマーム)のもとで集団礼拝をおこなうことが原則である。そこではフトゥバがとなえられ、時の支配者の名が民衆にしらしめられる。イスラームが新たな地に政権を樹立する際、はじめに金曜モスクがたてられる。ムスリムの増加とともに、モスクの建設がさかんになり、大きな都市では複数の金曜モスクと数多くのモスクをもつようになる。これらのモスクのなかには金曜モスクのほかに、街区(ハーラ、マハレ)のモスク、私的礼拝堂、墓建築とセットになったモスク、大祭(イード)に使われる郊外にもうけられた礼拝広場(イードガーやムサッラー)などがある。建築複合体のなかでは1室が公共のモスクとして設定される場合もおおい。このようにムスリムのいるところにはその位置や規模についても様々なカテゴリーのモスクが存在する。

■モスクの諸施設

 これらのモスクに共通する諸施設をあげてみよう。モスクのただひとつの必須施設はキブラ壁にあるメッカの方をさししめす窪み(
ミフラーブ)である。これはあくまでも礼拝の目印であって、決してそこが仏教建築における内陣のように不可侵の聖域というわけではない。ミフラーブには時には神の一つの属性である光を象徴するランプがえがかれることや、一つのモスクのキブラ壁に数箇所のミフラーブがもうけられることもある。そして、金曜モスクでは、ミフラーブの横に礼拝の先達をする導師(イマーム)が座る階段状の説教壇(ミンバル)がおかれる。神の前に平等であるムスリムは、先達にみちびかれ、キブラ壁に平行にならんで集団礼拝をとりおこなう。礼拝の前におこなわれる清浄(ウドゥー)のための施設も重要である。ムスリムは流れる水によって、身をきよめ、それから礼拝の所作にはいる。中庭(サハン)にもうけられた泉(ホウズ)から滾々とあふれおちる水は、たんに儀礼上やくだつだけでなく、清浄なる空間の演出に効果的である。礼拝の呼び掛け(アザーン)をおこなう塔(ミナレット、ミーナール)も、必須とはいえないがモスクに頻出する施設である。ムスリムの町では日に5回の礼拝時刻のまえには、モスクのミナレットからムアッジン(礼拝へのよびかけの朗誦者)の声がひびきわたる。また、女性が家族以外の男性の前に姿をあらわすことをよしとしないイスラムでは、モスクには特別に女性専用席(ザナナ)が区画される場合もある。より小型の用具として高壇(ディッカ)、コーラン台、礼拝用絨毯、モスク・ランプや燭台、数珠などもあげられる。

■モスクの機能

 モスクの第一の機能は無論、礼拝の場であるが、最初のモスクは預言者ムハンマドがメディナで布教活動をした住宅であり、加えて初期のモスクがムスリム政権の支配の拠点となったことから派生して、歴史的なモスクにも様々な機能がもりこまれている。金曜モスクは、制令の布告や裁判がおこなわれる行政の場であり、講義がおこなわれ図書館をも有する学問の場であり、子供たちにコーランを教える教育の場でもあった。また、遺体安置所が併設されたり、遺体洗浄の場がもうけられ、死の儀礼にかかわる場合もある。そして、何よりも地域住民の集う情報交換の場でもあった。このようにイスラム都市における多目的な公共の場として機能する姿は今日もかわらない。寺院建築としてみる場合、モスクには礼拝の対象があったり、聖域があるわけではないことは特筆すべき事象であろう。礼拝のときには神の前に平等な敬虔なムスリムたることを自覚するわけで、それをとりおこなう公共の清浄なる空間がモスクであるといえよう。

■インドのモスクを見るにあたって...

 以上、イスラム世界の共通する事項を取り上げたが、インドのモスクを見る場合、最初に留意せねばならないのは、インド亜大陸からメッカの方角はちょうど西にあたり、ほとんどのモスクの礼拝室は東を正面とするという点である。中東のモスクとの大きな相違点は、中庭の扱いである。中東のモスクでは、大きなモスクから小さなモスクまで中庭を持つことが多く、中庭の四面がほぼ同様に分節されている。インドにおいては金曜モスク(ジャーマ・マスジド)では中庭をもつことも多いが、中庭の西辺に奥行の深い堂々たる礼拝室が設けられ、西辺と他の3辺の扱いが大きく異なる。また、街区のモスクや墓建築と対になった小モスクにおいては、中庭を持たない場合が多く、矩形の礼拝室が構築され、その東側に囲壁によって前庭が区画される。インドのモスクの特異点は、金曜モスクでは門建築が重要な位置を占める点、ムガル朝以前に建立された金曜モスクの多くが建築化された女性席(ザナナ)を持つ点、ミフラーブの数が多い点、墓地のモスクともいえる壁モスクがデリーに多くみられる点などがあげられよう。

 


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