インドネシア政治経済日誌 1999年11月
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11月1日 グス・ドゥル大統領、マルズキ検事総長にスハルト元大統領の不正蓄財疑惑捜査再開とアチェにおける各種人権侵害事件の即時調査を指示。
    グス・ドゥル大統領がアチェにおける軍区(Kodam)設置の中止を表明し、7月の宗教指導者射殺事件に関してウィドド国軍司令官に現地軍幹部の取り調べを請求。
    情報省と社会省の廃止政策に関し、国会の国政調査権を発動するとアクバル議長が表明。
    KOMPAS紙が、98年度の米輸入量が580万トンに達したと報道。
11月2日 大統領令(99年15号)にもとづき、バリ銀行問題に関するプライスウォータース・クーパース(PwC)社長文報告書の公開を決定。 クイック経済調整相が、同報告書をジャカルタ訪問中のネイスIMFアジア太平洋担当部長に提出。IMF融資再開の前提が整う。
    上記報告書公開により、ゴルカルの総選挙対策組織が150億ルピアをエラ・ギアット・プリマ社〔ジョコ・チャンドラ所有)から受け取っていたことが判明。
    ウィジョヨ・ニティサストロ元経済調整相とアリ・ワルダナ元蔵相が、大統領からの国民経済会議(DEN)への参加要請を、高齢を理由に謝絶。
    西アチェ県で住民投票を要求して2万人がデモ、政府庁舎が放火され騒乱状態に。
11月3日 ネイスIMFアジア太平洋担当部長が、大統領と会見後、銀行再建庁は政治から独立した機関でなければならないと発言。
    クイック経済調整相が、銀行再建庁長官の交代はないだろう、今後その任命は大統領の直轄事項になろうと発言。
11月4日 アチェのピディエ県で、住民25万人(全人口の半分)が住民投票を求めて行進。ロッスマウェ県では州知事補佐役場が焼き討ちされる。
    グス・ドゥル大統領が、アチェでの住民投票要求を「住民が望むのならば原則的には支持する」と外国人記者団に表明。
    国軍が大人事異動を公表 (詳細は、「インドネシア経済・政治データ集」の別表参照)
    グス・ドゥル大統領が、将来東ティモール政府がASEANに加入するのを支持すると発言。
    バリ銀行問題の法的処置についてはIMFは干渉しないと、ネイス部長が記者団に表明。
11月5日 インドネシアへの支援融資再開に向け、次週からジャカルタで協議に入ることにIMF理事会が合意。
    ルディ・ラムリ元バリ銀行頭取が警察留置場から出されて自宅軟禁に。
    アンボンのマルク州知事公舎付近で青年・学生約200人が請願デモ中に爆弾5発が炸裂し、負傷者が出る。
11月6日 グス・ドゥル大統領がASEAN歴訪に出発、まずシンガポールでゴーチョクトン首相、リークアンユー上級相と会見し、財界人らと会談。リークアンユーにインドネシア政府経済顧問就任を要請。即日マレーシアへ。
11月7日 グス・ドゥル大統領がマレーシアからミャンマーへ。アウンサン・スーチーとの会見は実現せず。即日、タイへ。
    ゴルカルのアクバル・タンジュン総裁がマリムトゥ・マニマレンからゴルカル選対に流れたバリ銀行がらみの選挙資金150億ルピアはすでに返済ずみ、と記者会見で説明。
11月8日 バンダアチェで、全州から集まった50〜100万人が住民投票を求める大集会。特別区議会議長らも参加し、支持を表明。
    カンボジア訪問中のグス・ドゥル大統領が、アチェの住民投票を実施するのは構わないが、その結果アチェがインドネシアを離脱することはないだろうと発言。
    アミン・ライス国民協議会議長とアクバル国会議長が、アチェ情勢への大統領の早急かつ真摯な対応が必要と発言。
    アサハンからアルミ地金を積んで10月22日に出港直後、海賊に船ごと奪われゴムボートで漂流を続けていたパナマ籍船アロンドラ・レインボー号(船長と機関長は日本人)の乗組員17人がタイ領海内で漁船に発見され、救出される。
    バンバン・スディブヨ蔵相が、国策大綱、国家予算、IMFとの合意書(LoI)にもとづき、政府は今後対外債務の減少に努めると記者会見で表明。
    深夜、アンボンで群衆が火炎瓶と爆弾で兵舎を襲撃し焼き払う。
36473 グス・ドゥル大統領がベトナム、フィリピンの訪問を終えて帰国し、記者会見の席で近くメガワティ副大統領とアチェを訪れると表明。
    ジャカルタ滞在中のアチェ特別区知事が、住民投票実施を支持すると表明。
    ストラダラ・ギンティングス (PKP)、ヤスリル・アナンタ B.((ゴルカル)、アイシャ・アミニ (PPP)らの国会議員が、住民投票実施決定は大統領の権限ではなく、国会の合意のもとに国民協議会の議決が必要と批判発言。
    東カリマンタン州議会特別総会が、連邦制導入要求を決議。
36474 グス・ドゥル大統領、アチェ州民との対話の道を探るためにハスバラー・M・サアド人権担当相をアチェに派遣することを決定。
    アミン・ライス国民協議会議長が、国家解体回避のためには独立承認よりも連邦制導入を検討すべきだと発言。
    学生組織「アチェ住民投票情報センター」代表がバンダアチェで記者会見し、完全自治か独立かを問う住民投票が来年中に実施されなければ、革命か、独立派ゲリラと国軍の戦争が起きる恐れがあると警告。
    民主党の羽田孜幹事長と江田五月参院議員がクパン経由陸路で東ティモールを訪問、シャナナ・グスマン、ベロ司教と会談。
11月11日 マグラン(中部ジャワ)で将官退官式典に出席したスバグヨ陸軍参謀長、ガファール北スマトラ(ブキットバリサン)師団長、トリ・ストリスノ元副大統領らが、アチェ問題は単一国家の枠組みのなかで平和的に解決されるべきだと発言。
    アチェ特別区のシャムスディン知事が知事公邸で、住民投票の支持を約束する文書に調印。
    バリ銀行社員一同が、敵対的企業接収を行ったとして新株主のスタンダード・チャータード銀行 (SCB) との協力拒否を宣言。
11月12日 アメリカを訪問したグス・ドゥル大統領がクリントン米大統領と会談。
    法廷で有罪になってもスハルト元大統領、ハビビ前大統領には恩赦を与えるが、他のスハルト一族と取り巻きについてはそうしないと、グス・ドゥル大統領がアメリカで記者団に発言。
    アミン・ライス国民協議会議長が個人的見解として、アチェの住民投票実施は急いではならない、かりに独立が選択されれば全国民の災厄になると発言。
    ジャカルタ・メディア・センターの公開討論会で、ハスバラー人権問題担当相がアチェの住民投票実施決定は大統領の権限事項ではないと発言。スドラジャット国軍首席報道官は、アチェは東ティモールのように「政府不在地域」ではないから住民投票はすべきでないと発言。
    現財政年度末までは、石油燃料と電気への補助金は廃止しないとスシロ・バンバン鉱業・エネルギー相が表明。
    来日中のアナン国連事務総長が宮沢喜一蔵相に、「パンドラの箱を開けすぎないようにすべきだ」とアチェ独立を支持しない意向を表明。
11月13日 ハスバラー人権問題担当相ら3閣僚がアチェを訪れ、NGO、学生、宗教指導者らと対談。
    現職3閣僚の汚職・なれ合い・縁故びいき(KKN)容疑を調査中と、マルズキ検事総長がKOMPAS紙の問い合わせに回答。
    アルウィ・シハブ外相がニューヨークでポルトガル外相と会談し、国交正常化に合意。
    テルナテ島と中ハルマヘラ県で暴動。
11月14日 トゥバン(東ジャワ)のイスラム寄宿塾(Pesantren Langitan)に集まったNUのキヤイたちが、グス・ドゥル大統領は重要政策の表明にあたっては慎重を期し、国会、国民協議会議長と事前協議すべきだと表明。
    アメリカのソルトレーク・シティで目を治療中のグス・ドゥル大統領が、KKN容疑3閣僚の後任人事の用意あり、と発言。
    スラバヤで開かれたNU、ムハマディヤ共催のコーラン朗唱会で、両組織は団結してグス・ドゥル政権を支えるとアミン・ライスが発言。
11月15日 グス・ドゥル大統領、訪米を終え訪日。河野外相と会談。
    世銀の河合チーフエコノミスト(アジア太平洋担当、原職は東大社研教授)が、インドネシアの対外債務総額は来年度にはGDPの98%に急増すると東京で警告発言。
    国連経済社会理事会、東ティモールでの残虐行為を調査する国際調査委員会の設置を承認する決議(日本は棄権)。
11月16日 グス・ドゥル大統領、小渕首相と会談。記者会見の席で7カ月後にアチェで住民投票実施の見通しと発言。
    グス・ドゥル大統領との会談で、宮沢蔵相が債務の棒引きには応じられないが返済繰り延べは検討対象となると発言。
    スハルト不正蓄財問題とバリ銀行問題が片づけばただちに辞任すると、マルズキ検事総長が発言。
    メガ・ラマと船名を塗り変えたアロンドラ・レインボー号を、国際海事機構(IMB)から通報を受けたインド海軍と沿岸警備隊がゴア沖450キロの洋上で発見、12時間の追跡ののち拿捕。
11月17日 アチェでジャワ人など非アチェ族住民の州外への脱出が急増し始める。
    KKN容疑の閣僚数名についての書類はすでに自分のもとに届いているが、容疑が確定したわけではないので名前などは公表できないとマルズキ検事総長が記者団に説明。
    バリ銀行問題で、検察庁がタンリ・アベン前国営企業問題担当相を取り調べ。
    グス・ドゥル大統領、銀行再建庁のグレン・ユスフ委員長を呼び銀行整理を急ぐよう指示。
36482 スバグヨ陸軍参謀長がブキットバリサン師団長交代式典で、アチェへの軍事戒厳令の適用を検討すべきだと発言。各界から反発。
    ウィドド国軍司令官は、軍事戒厳令適用の計画はまだないと国会で記者団に説明。
    グス・ドゥル大統領、国会総会で7か月後にアチェで住民投票を実施するなどの政策方針について説明。各会派から反発。情報省、社会省の廃止方針は不変という大統領の説明についても抗議の声。
11月19日 バリ銀行に対するSCB社の経営権は維持されるが、一時的に銀行再建庁が管理に当たると銀行再建庁幹部が表明。
11月20日 陸軍参謀長、国軍副司令官、国家情報調整本部(BAKIN)長官の交替人事発令(それぞれティヤスノ・スダルト大将、ファフルル・ラジ大将、アリー・クマアト中將)。
    アチェ全住民は住民投票を希望している、軍事戒厳令布告は問題を悪化させるだけだとシャムスディン州知事が発言。
    ムンバイに運ばれたアロンドラ・レインボー号のインドネシア人乗っ取り犯15人をインド警察が逮捕、留置。
11月21日 クディリ(東ジャワ)のPesantren Lirboyoで第30回NU総会始まる。開会の大統領演説でグス・ドゥルが、「NUは今後も政府に対して建設的な批判を寄せて欲しい」と発言。
11月22日 ユウォノ国防相が国会第1委員会で、独立許容ではなく、イスラム法(syariat)を適用する特別地域とするためにアチェで住民投票を行うのが大統領の意図だと理解すると発言。
    グス・ドゥル大統領、クウェートを訪問。
    バンバン・スディブヨ蔵相が国会第9委員会で、対外債務削減のため今後は重要プロジェクトにのみ借款を導入すると発言。
    リヤース・ラシド地方自治担当相が、バンテン、マドゥラ、島嶼部リオウの州への昇格を検討中と、国会第2委員会作業部会で発言。
11月23日 IMF派遣の特別チームと政府が、@中長期経済戦略、A19992000年度のマクロ経済政策、B19992000年度の構造改革の3大項目から成る趣意書(LoI)案の内容について合意。
    IMFが砂糖輸入税について同意したと、Jusuf Kalla商工相が国会第5委員会作業部会で説明。
    国会アチェ問題特別委員会が、LB ムルダニ、トリ・ストリスノ、フェイサル・タンジュンの3元国軍司令官の他、プラモノ元ブキットバリサン師団長、シャルワン・ハミド元アチェ駐屯軍司令官、ザッキー・アンワル・マカリム元陸軍特殊部隊(KOPASSUS)司令官、イブラヒム・ハッサン元アチェ州知事らの喚問を決定。
    国会第1委員会作業部会でウィドド国軍司令官が、アチェをはじめ分離主義が各地に広がっているが国軍は単一国家という建国者たちの公約を堅持する、と発言。
    パラマディナ大学学長ヌルホリス・マジッドが「インドネシアの創造の歴史にアチェは深く関与しており、インドネシアから離れることはできない」と発言。
11月24日 グス・ドゥル大統領、アンマンでアラファトPLO代表と会談。ガザ地区にインドネシアの通商代表部を設置することで合意。
    陸軍戦略予備軍(KOSTRAD)司令官が、ジャマリ・チャニアゴからジャジャ・スパルマンに正式に交代。
11月25日 アチェ人民闘争・正義フォーラム(Fopkra)の在ジャワ・アチェ人約3000人が、住民投票を要求して国会にデモ。
    国会アチェ問題特別委員会で、ウィラント政治治安担当調整相とユウォノ国防相が、大多数のアチェ州民はインドネシアとの合一を欲しており、人権侵害問題の司法的解決と対話により問題解決が可能と発言。
11月26日 グス・ドゥル大統領、中東3国歴訪から帰国途上の機中で記者団に、アンマンでプラボウォ元陸軍戦略予備軍司令官に会い彼の帰国の可否について相談したと説明。
    グス・ドゥル大統領、ハムザ・ハズ国民福祉・貧困問題担当調整相の辞任を公表し、開発統一党(PPP)の党務専念のためで当人はKKN関与疑惑3閣僚には含まれないとも言明。後任はバスリ・ハサヌッディン元ハサヌディン大学学長。
    小渕首相がジャカルタに到着、大統領の出迎えを受ける。
    第30回NU総会、中央指導会議議長(Rais Aam Syuriyah PB NU)にサハル・マフフズ、同副議長にファフルッディン・マストロ、中央執行会議議長(Ketua Umum Tanfidziyah)にハシム・ムザディを選出して閉会。
11月27日 小渕首相がグス・ドゥル大統領と会談、会談後の記者会見でアチェ問題はインドネシアの国内問題と発言。
    航空自衛隊機が西ティモール到着(29日から救援物資空輸開始)。
    アンボン市内で騒乱拡大、死者37人に達する。
    自由アチェ運動行政評議会(Majelis Pemerintahan GAM)が、12月4日のアチェ建国記念日にインドネシア軍施設への攻撃は行わないと言明。
11月28日 マニラで開催中のASEAN非公式首脳会議が、インドネシアの国土統一に対する支持を表明。
    スハルト元大統領が故ティーン夫人の墓に墓参。
11月29日 国会アチェ問題特別委がLB ムルダニ、トリ・ストリスノ、フェイサル・タンジュン、シャルワン・ハミッド、プラモノ、ザッキー・アンワル・マカリムの4将軍を喚問。しかし、追及の成果を挙げずに終わる。
    国会第9委員会でラクサマナ・スカルディ国営企業担当相が、Texmaco社への国営銀行過剰融資にはスハルト元大統領が関与していたと発言。
    ジャカルタ訪問中のシャナナ・グスマンがアクバル・タンジュン国会議長と会談し、東ティモールはインドネシアと緊密に協力したいと表明。
    IMFが最近締結のLoIで石油燃料と電気への補助金撤廃を提言したが、政府はただちにこれに応じることはないと、スシロ・バンバン鉱業・エネルギー相が国会第8委員会で答弁。
    住民投票を要求して国会を訪れたアチェ人学生デモ隊に向かって「アチェはインドネシアからの分離を望んでいない」と発言したアクバル・タンジュン国会議長が、ミネラルウォーターの瓶を投げつけられる。
    アチェのウラマ、寄宿塾生(タリバン)、知識人がグス・ドゥル大統領の招きでジャカルタに出発。
    スルヤディ・スディルジャ内相が、イリアンジャヤの3州分割の延期を表明。
    アチェとイリアンジャヤの騒動の背後に第3者が介在していることを政府は警戒する、とユウォノ.国防相が発言。
11月30日 グス・ドゥル大統領がシャナナ・グスマンと会談し、インドネシアは東ティモール支援の用意があると表明。
    Texmacoグループのマリムトゥ・シニヴァサン社長が、国営銀行からの融資請求に際してスハルト元大統領に支援を依頼する書簡を送ったと国会第9委員会で発言。
    グス・ドゥル大統領が、バスリ・ハサヌッディンを国民福祉・貧困問題担当調整相に正式に任命。ハムザ・ハズ前大臣は更迭を甘んじて受けると発言。
    西アチェ県で、日本人記者(アジアプレス社)とアメリカ人カメラマンの乗った自動車が、ゲリラ追跡中の軍兵士から銃撃を受ける。