イスラーム地域研究5班

bグループ研究会「南アジアのムスリムの歴史」

5−b班研究会が、南アジアのムスリムの歴史をテーマとして、1月24日(土)午後2時から6時まで、東洋文化研究所第1会議室で開かれた。参加人数は報告者も含めて15人であった。

 次の三つの研究報告があり、活発な討論が行なわれた。

1)野手修「インド美術史における『他』としてのムスリム文化」

2)永ノ尾信悟「北ビハール農村の低カースト・ムスリムの歌うマルシーア−−その実際と歴史的背景」

3)大石高志「19世紀以降における西インド出身ムスリム商人層の社会経済的活動の展開−−イギリス植民地経済圏との関わりを手がかりとして−−」

 野手は、19世紀インドにおけるナショナリズムの高まりと連動するかたちで、中間層独自の美意識、引いては「学問」としての美術史学が形成されていった過程を分析し、ヒンドゥー美術に対してイスラーム美術を「他者」として位置づける言説がいかにして成立したかを論じた。

 永ノ尾は、中世インドのデカン諸王国で盛んに作られた、カルバラの悲劇を歌うペルシア語の詩「マルシーア」が、形を変えながらも、現代のインド・ビハール州の下層ムスリム農民の間の民衆歌謡として存続していることを、農村における聞き取り調査に基づいて明らかにし、詩形に見られる特徴をいくつか指摘した。

 大石は、イギリス植民地支配下で、経済活動のみならず文化・政治面でも重要な役割を果たした、インド西部のムスリム商人層の自己認識と政治意識の問題を分析し、イギリスと相互依存関係にありながらもパン・イスラミズムに傾斜していく彼らの意識の両義的な構造を明らかにした。

 

 本年6月20日に第2回目の研究会を開くことを決めて、散会した。

(中里 成章) 

5jimu@culture.ioc.u-tokyo.ac.jp