イスラーム地域研究5班
研究会報告

回儒の著作研究会研究合宿・活動報告


日時: 2000 年 3 月 9 日(木)〜10 日(金)
場所: 千葉県長生郡一宮町・ホテルシーサイドオーツカ
 研究合宿はホテルシーサイドオーツカ付設の研修施設αプラザ(上総一ノ宮)で行われ、発表者 5 名の他、青木隆(東京大学大学院博士課程)石田幸司(東京大学大学院修士課程)、岸本美緒(東京大学教授)、小島毅(東京大学助教授)、佐藤實(関西大学大学院博士課程)、中西竜也(京都大学大学院 修士課程)、三浦徹(お茶の水大学教授)の計 12 名が参加した。
 研究合宿開催に至った経緯は次のようなものである。まず、当研究会では劉智の『天方性理』を「本経」の解説部分に当たる「図伝」を中心に読解を進めてきたが、劉智の思想の一端が見えはじめたこの機会に、劉智の思想のエッセンスである「本経」の読解を試みようという合意に達したことがある。また、当研究会では以前よりイスラム思想・中国思想の用語と対比しつつ、「図伝」中の用語について日本語訳の確定を試みてきた。しかし、この作業は非常に難航しており、状況改善のためには、劉智が参考文献として用いた漢訳経典とその原典(ペルシャ語・アラビア語)の読解・対比が不可欠であるとの指摘が以前より見られていたことがあげられる。さらに、通常の研究会の時間内においてはこれらの研究活動を行うことは非常に困難であると考えられたため、今回は研究合宿の形で研究会開催を行った次第である。


第一部: 9 日 13:30〜18:30

1.『天方性理』本経第一章

  翻訳・発表 鈴木弘一郎(東京大学大学院博士課程、中国思想文化)
        松下道信 (同上)

2. スライド上映会 “南京回族の調査から”

        西澤治彦 (武蔵大学人文学部教授)

第二部: 10 日 9:00〜12:00

1. 『真境昭微』(ジャーミー『閃光』の漢訳)の
   各節の題目とジャーミー『閃光』各節の題目の比定

  発表    仁子寿晴 (日本学術振興会特別研究員)

2. 『真境昭微』第十三〜十六章

  翻訳・発表 黒岩 高 (東京大学大学院博士課程)
        仁子寿晴 (日本学術振興会特別研究員)


 第一部「1.」では『天方性理』「本経」第一章のうち、前半部分を鈴木、後半を松下が担当し、「図伝」読解を通じて得られた知見をもとに読解を試みた。しかし、「本経」で用いられている用語は「図伝」用いられている用語との間に微妙な差異が見られ、また漢訳アラビア語・ペルシャ語経典の引用が頻繁に見られるため、訳語の確定はひとまず保留し、劉智が主要な参考文献として用いた六つのアラビア語・ペルシャ語経典とその漢訳の入手と読解(うち三つは原典・漢訳ともに入手済み)を待つこととなった。
 「2.」では西澤治彦氏自らが撮影したスライドをもとに報告が行われ、劉智の墓碑銘、南京回族の葬礼の様子を含む貴重な映像が公開された他、現代の南京回族の現状について政治・社会・教育・建築などの諸方面から報告がなされた。

 第二部では劉智が主要な六つの参考文献の一つとして挙げている『真境昭微』(劉智訳、Jami, Lawa'ih の漢語訳)を取り上げた。まず「1.」で仁子がペルシャ語原典と漢語訳の両者の題目について比定を行い、次に「2.」において『天方性理』と関連の深い十三章〜十六章を取り上げ、漢語を黒岩、ペルシャ語を仁子が担当し、読み合わせを行った。ここで指摘されたのは、まず、『真境昭微』が逐語的にペルシャ語を漢語に訳したものであること。次に、劉智は忠実な翻訳を目指す一方で、偶数語の対句の形式など漢語のリズムを重視しており、それにより訳語としての漢語が変化する場合が見られることであった。

(文責・黒岩 高)


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