なお、この研究会についてのお問い合わせは、今後
森本 一夫
113-0033 東京都文京区本郷7-3-1東京大学東洋文化研究所
Tel: 03-5841-5888 Fax: 03-3815-9565
E-mail: morikazu@ioc.u-tokyo.ac.jp
にお寄せ下さい。
オーガナイザー:森本 一夫(東京大学東洋文化研究所)
佐藤健太郎(東京大学人文社会系研究科博士課程)
知識は、学者・知識人たちの技術的な知的営為の中だけで完結するものではない。それは常に社会との相関関係のもとに存在する。それは、社会に働きかけ、影響を及ぼし、また逆に社会のあり方や変動によって形づくられるものである。本研究会では、知識と社会の間に存在するこのような相関関係の様々な局面を論じ、イスラーム文明における知識の様態と、そこでの知識観の特質を解明することを目標とする。固有の意味、あるいはメッセージを持った知識が、時に断片的なものとして、時に体系的なものとして、社会とその構成員に影響を及ぼす過程、それとは逆に社会が知識を生み出してゆく過程、あるいはそのようなダイナミックな過程としては捉えがたいような知識と社会の間の静かな緊張関係を、できるだけ「知識」の内容自体に踏み込みながら検討したい。その際、知識に起こる変化と社会変動の間の単なる表面的な関係探しをもって説明とするのではなく、知識を取捨選択する、あるいはそれに無意識に呑み込まれたり創りだしたりする個々人や集団の意識やアイデンティティの問題に迫ることを目指す。
イスラーム史研究の分野では、マドラサなどを舞台としイスラーム法学を中心とした高等な宗教教育とそれに深く関係するウラマーの問題が、その政治的、社会的意義の解明に力点が置かれる形で論じられてきた。この分野での研究の蓄積は我が国でも比較的多く、関心を持つ層も若手研究者を含め比較的厚い。しかし、たとえば特定の都市における法学派の発展を論じるとき、主に用いられてきた方法は、マドラサの数の推移といった計量的な手法が中心だったのではないだろうか。本研究会では、たとえばこのような問題を考える際にも、マドラサという場で伝達・再生産された知識自体の内容を視野に入れ、議論を深めてみたい。特定の地域の特定の法学派の発展について論ずる際にも、問題を一旦は普遍化し、法学知識とその普及が地域社会というものにもたらす社会的変化、あるいは個人・社会集団の行動や思考様式に及ぼす影響を探求し、そのような根本的な理解に基盤をおいて考察することを志向する。
なお、イスラーム法に関係する諸問題については、必要に応じ、イスラーム法を中心的な対象として研究を推進しているIAS1班c「イスラームの国家と社会」に協力を仰ぐ。
本研究会では、以上のような広範な範囲を対象とするゆえに、個別の専門的な主題について回を経るごとに議論が深められるという展開には必ずしもこだわらない。下のような形式で行われる諸発表が、上記のいまだ漠然とした問題設定に沿ってそれぞれの発表者による「挑戦」の結果行われ、「知識と社会の相関関係」に関する議論と認識が徐々に深まってゆくことを期す。
(文責:森本一夫)