イスラーム地域研究5班
研究会案内

研究会「知識と社会」のおしらせ

 「イスラーム地域研究」研究班5のaグループでは、今年度より研究会「イスラームにおける知識と社会の相関関係」(略称「知識と社会」)を発足、運営することになりました。以下に掲げました趣意書をご覧の上、研究会の成功のためご協力下さいますようお願い申し上げます。
 なお、初回の会合を7月3日(土)に、佐藤健太郎氏(東京大学人文社会系研究科大学院)の発表で行う予定ですが、これについては、詳細が決まりましてから改めてご連絡申し上げます。

なお、この研究会についてのお問い合わせは、今後

森本 一夫
113-0033 東京都文京区本郷7-3-1東京大学東洋文化研究所
Tel: 03-5841-5888 Fax: 03-3815-9565
E-mail: morikazu@ioc.u-tokyo.ac.jp

にお寄せ下さい。


研究会「イスラームにおける知識と社会の相関関係」

オーガナイザー:森本 一夫(東京大学東洋文化研究所)
        佐藤健太郎(東京大学人文社会系研究科博士課程)

一 趣旨

 イスラームの文明世界には様々な知識が横溢している。イスラーム文明が継承し取りこむことになった先行諸文明の豊かな遺産、それらの遺産に負いながらイスラーム文明が独自に築き上げた知の体系、そして並行する諸文明との交流や対立の過程でもたらされたもの。本研究会が対象とするのはこの広大なるイスラームの知識の世界である。

 知識は、学者・知識人たちの技術的な知的営為の中だけで完結するものではない。それは常に社会との相関関係のもとに存在する。それは、社会に働きかけ、影響を及ぼし、また逆に社会のあり方や変動によって形づくられるものである。本研究会では、知識と社会の間に存在するこのような相関関係の様々な局面を論じ、イスラーム文明における知識の様態と、そこでの知識観の特質を解明することを目標とする。固有の意味、あるいはメッセージを持った知識が、時に断片的なものとして、時に体系的なものとして、社会とその構成員に影響を及ぼす過程、それとは逆に社会が知識を生み出してゆく過程、あるいはそのようなダイナミックな過程としては捉えがたいような知識と社会の間の静かな緊張関係を、できるだけ「知識」の内容自体に踏み込みながら検討したい。その際、知識に起こる変化と社会変動の間の単なる表面的な関係探しをもって説明とするのではなく、知識を取捨選択する、あるいはそれに無意識に呑み込まれたり創りだしたりする個々人や集団の意識やアイデンティティの問題に迫ることを目指す。

二 対象とする知識・学問

 知識の範疇に入り、上記のような観点から重要な意義を持つものであればどのような分野に属することでも対象となりうる。以下の内容は、研究会の趣旨をよりあきらかにするための例示的なものである。

(1)<イスラーム法学>

 ムスリムとしての行動の規範を幅広く規定するイスラーム法学が、ムスリムひとりひとり、あるいは彼らが構成する社会に対して持つ影響力は計り知れない。個々の規定事項という次元でも、あるいは社会集団としての法学派という次元でも、またその他の様々な次元でも、本研究会がイスラーム法について検討せねばならない問題は数多い。

 イスラーム史研究の分野では、マドラサなどを舞台としイスラーム法学を中心とした高等な宗教教育とそれに深く関係するウラマーの問題が、その政治的、社会的意義の解明に力点が置かれる形で論じられてきた。この分野での研究の蓄積は我が国でも比較的多く、関心を持つ層も若手研究者を含め比較的厚い。しかし、たとえば特定の都市における法学派の発展を論じるとき、主に用いられてきた方法は、マドラサの数の推移といった計量的な手法が中心だったのではないだろうか。本研究会では、たとえばこのような問題を考える際にも、マドラサという場で伝達・再生産された知識自体の内容を視野に入れ、議論を深めてみたい。特定の地域の特定の法学派の発展について論ずる際にも、問題を一旦は普遍化し、法学知識とその普及が地域社会というものにもたらす社会的変化、あるいは個人・社会集団の行動や思考様式に及ぼす影響を探求し、そのような根本的な理解に基盤をおいて考察することを志向する。
 なお、イスラーム法に関係する諸問題については、必要に応じ、イスラーム法を中心的な対象として研究を推進しているIAS1班c「イスラームの国家と社会」に協力を仰ぐ。

(2)<その他の諸学>

 知識と社会の相関関係はなにも法学に限定されるものではない。他の宗教諸学、世俗的な人文諸科学、自然科学も本研究会の対象から外されてはならない。たとえばその社会的な重要性に鑑みるとき、農学と農村社会の営み、医学と人々のからだとの関わり方、あるいは暦と人々の生活サイクル・世界観などの間に見いだされる深い相関関係を採りあげることは非常に重要である。逆に、このような必ずしも宗教的とは限らない知識と宗教的知識の共存の様態も、知識のあり方の一側面として検討の対象となりうる。

 本研究会では、以上のような広範な範囲を対象とするゆえに、個別の専門的な主題について回を経るごとに議論が深められるという展開には必ずしもこだわらない。下のような形式で行われる諸発表が、上記のいまだ漠然とした問題設定に沿ってそれぞれの発表者による「挑戦」の結果行われ、「知識と社会の相関関係」に関する議論と認識が徐々に深まってゆくことを期す。

三 活動

 活動の最初の年度である一九九九年度には、年に三回の頻度で研究会を開催し、議論を深めたい。研究会での発表において、発表者は上記の趣旨にできるだけ沿う内容のペーパーを準備することに挑戦し、それを、発表する。同時にこの研究会の機会に、随時関連書物の書評会を行う。事前にオーガナイザーと発表者のみならず、参加予定者が電子メールなどを通じて打ち合わせと意見の交換を行うことを通じて、議論の土壌が整うように図る。IAS5班のホームページに書込自由の電子会議室を設けてもよい。研究会のオーガナイザーの年齢からみて、研究会メンバーも若手研究者、大学院生が主となると想像されるが、単なる「若造のたまり場」とならないようにし、活動の成果をIAS5班のホームページ利用などを通じて公表してゆきたい。なお、三年間の成果いかんによってはその後の活動継続も考える。

(文責:森本一夫)


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