イスラーム地域研究5班
b グループ「地域間交流史の諸相」

【活動計画】

 地域間交流の様々な側面を研究する以下の 3 種類の研究会を開催します。

 a.国際商業史研究会(責任者:深沢克己、年 2 回程度)
 b.「イスラーム圏における国際関係の歴史的展開」研究会(責任者:黒木英充、年 2 , 3 回)
 c.「地域間交流史の諸相」研究会(責任者:羽田正、年 2 回程度)

a.b.の研究会は、従来からすでに活動を行っているものです。aは、深沢克己氏が主として西洋史、イスラーム世界史の若手研究者に呼びかけて組織し、19 世紀以前のヨーロッパを中心とする国際商業の諸問題を議論する場となっています。bは、東京外国語大学AA研の班研究の一環として、黒木氏が運営し、オスマン帝国を中心に置いた国際関係の諸問題を考える研究会です。5 班 b グループは、この二つの研究会の活動、運営を支援するとともに、二つの研究会の橋渡しとなるようなグループ独自の研究会(c)をも組織します。


国際商業史研究会

(bグループ)

a)研究の方針:社会の内部的・自生的発展と国民国家の形成・確立とを叙述の中心にすえる歴史学の伝統に対して、国境をこえた広域空間・文明世界における接触・交流のもつ歴史形成力に着目し、この接触・交流を実現する主要因として国際商業を研究する。したがってそれは一国史的視点から貿易収支を論じる「対外貿易史」ではなく、広域的なもの・ひと・かね・情報の流通を考える「国際商業史」であり、また狭義の経済現象だけでなく、技術・言語・宗教・思想など、文化・社会現象の全般に関心をもつ。

b)研究の対象:本研究会はヨーロッパ史・西アジア史の研究者を主体として組織され、中世後期から19世紀までの時代について、イギリス・フランス・スペイン・イタリア・オランダ・ドイツ・北欧諸国・ロシア・オスマン帝国・イランなど、広大な地域にまたがる研究をおこない、将来はインド洋・東アジア・アフリカなどの研究者にも参加を呼びかけたいと考えている。

c)活動の内容:年 2 回の会合を組織し、そこで研究報告と質疑応答をおこない、また相互に文献情報を交換する。会員は原則として大学院博士課程以上の研究者とする。

d)「イスラム地域研究」5 班 b との関係:本研究会は IAS 登録メンバーに広く会合への参加を呼びかける。ただし研究会の本来の会員とは異なり、報告や文献情報提供の権利・義務をもたない自由参加とし、また学部学生・修士課程院生の参加をも歓迎する。もちろん参加者各人の希望により、研究会の「正規の」会員として名簿に登録することができる。

(文責・深沢 克己)

上に戻る


「イスラーム圏における国際関係の歴史的展開 − オスマン帝国を中心に −」

(bグループ)

主宰者:黒木 英充

 本プロジェクトは、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(以下AA研と略)の共同研究プロジェクトの一つでもあり、すでに 1998 年度から 3 年計画で開始されているものです。黒木を含めてAA研所員 5 名と 20 名のAA研共同研究員(うち数名は「イスラーム地域研究」分担者と重複)によって構成されていますが、研究会は常に公開して開催しております。
 本プロジェクトは、イスラーム圏において国際関係がいかに形成され、認識され、発展してきたかを、総合的に研究することを目的としています。その出発点として、600 年以上にわたって中東地域の中核部で発展し、また文書資料による情報を豊富に蓄積したオスマン帝国を対象に選びました。そして、その対西方(地中海・西欧地域に向けて)、対北方(ロシアに向けて)、対東方(中央アジアとイラン、インド洋地域に向けて)、さらに可能であれば対南方(アフリカ内陸地域に向けて)の、それぞれの国際関係の実態を、時代的な発展過程に留意しながら、多角的に論じる場をつくりだすことを企図しています。
 ここでいう国際関係とは、国家間の外交関係のみならず、その基層をなした人間たちの交流の具体相もふくむ広義のものです。従って、国際条約とイスラーム法の関係、戦争と安全保障、外交団の構成と活動、通訳、貿易と関税、巡礼といった様々な問題が設定されます。これらの課題を、古代西アジア世界もふくめた長期的展望の中で位置づけ、同時に現代世界の国際関係、とりわけ中東地域をめぐる国際政治に対しても、新しい有効な視座を提供できるように検討してゆきます。

 1998 年度には次のような研究会を開催しました。

第 1 回研究会(1998 年 7 月 4 日)
堀井優「16 世紀前半における東地中海世界秩序の変容−オスマン朝・マムルーク朝・ヴェネツィア−」

第 2 回研究会(1998 年 10 月 3 日)
宮崎和夫「スペイン帝国とオスマン帝国の外交関係」
羽田正「新発見シャルダン関係文書の価値」

第 3 回研究会(1999 年 3 月 6 日)
新谷英治「16 世紀のオスマン朝における世界認識−『キターブ・バフリエ』韻文序の分析から−」
山口昭彦「オスマン史料にみる 18 世紀初頭イランの地方社会−アルダラーン地方を中心に−」

今後も研究会は公開して開催してゆく予定ですので、関心ある方には自由に参加して頂きたく考えております。

(文責・黒木 英充)

上に戻る


「地域間交流史の諸相」研究会

(bグループ)

 目的や活動方針の要約は次の通りです。

<前提>

  1. 領域国家、国民国家などの「政治的地域」だけではなく、言語、宗教、民族、技術などの様々な文化的ものさしを用いて、「文化的地域」を設定し、それぞれの地域が互いにどのように接触し、交流してきたのか、その具体的様相を明らかにする。また、地域間交流を可能にした主体的要因は何なのか、についても考察する。
  2. 面的な広がりを持った地域(「ヨコの地域」)だけではなく、ある一つの地域の中の重層性(「タテの地域」)に注目する。一つの地域は決して単純な一枚岩ではないということに留意する。
  3. 過去における地域間交流が、現代世界のあり方にどのような影響を与えているのかに注意を払う。
<具体的な研究対象>

  1. 地域間の交流(人、モノ、カネ、情報)が行われる「場」の研究。港町、宿駅、市場、道路など。3 年という限られた期間の研究会なので、これらのうちでも特に「港町」を重視したい(他を排除するわけではない)。マルセイユ、ジェノヴァ、イズミール、ベイルート、バンダレ・アッバース、スーラト、マラッカ、寧波、長崎などを素材として取り上げ、様々な角度からアプローチを試みる。例えば、港町の形態、そこで働く人々、商取引のあり方、土地所有、関税、使用される言語、「租界」、宣教・布教活動、異民族間の結婚、娼婦、政治権力との関係など。異なった地域に存在する港町の物質的、社会的、文化的要素を研究し、その成果を比較すれば、港町としての共通性とともに、各地域の地域的特性も明らかにできるのではないか。
  2. 異なった地域を結ぶ人、社会集団の研究。商人ネットワーク(例えば、アルメニア人、インド系、イラン系の人々など)。船乗り社会、海賊、山賊、隊商、巡礼、宣教師など。「移動する人々」に注目すれば、地域間交流の具体像が見えてくるのではないか。
<目標>

年 2 , 3 回の研究会を積み重ね、最終年度には外国人研究者を含む国際ワークショッ プを開催する。その成果を IAS 叢書として刊行する。

(文責:羽田 正)

上に戻る


戻る