ASNET -東京大学 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク--

主催イベント

アジアを知るートルコ映画『白い天使』から

  • シンポジウム

ASNETはトルコ文化センターと共同で以下のシンポジウムを開催しました。
——————–
    

【報 告】
2016年7月22日(金)、情報学環福武ホールにて、ASNET・トルコ文化センター主催、中東映画研究会、東洋文化研究所、東洋学研究情報センター・セミナー、科研費「イスラーム・ジェンダー学構築のための基礎的総合的研究」(代表:長沢栄治)共催のシンポジウム、「アジアを知る― トルコ映画『白い天使』から/Knowing Asia: Through Turkish Film White Angel」が開催された。今回のシンポジウムでは、マフスン・クルムズギュル監督の『白い天使』(2007年、トルコ)を取り上げた。映画の舞台は現代のトルコ、主人公は東部アナトリアの町、ディヤルバクル出身の地主アハメットである。前半は彼がイスタンブルで迷い込んだ高齢者施設「安らぎの家」の日常が描かれ、後半はアハメットと施設入所者の男女が、東部へと旅に出る様子が描かれる。

本編上映前、ケマーレッティン・ドールテキン氏(トルコ文化センター)から映画および監督の紹介があった。自ら主人公の息子(影の主人公)を演じるクルムズギュル監督は、ディヤルバクルで、クルド系の少数民族ザザ人の家庭に生まれ、22人の兄弟姉妹を持つという。おじやおば、いとこも含めて大家族の中で暮らす東部の人々を描く視線は温かく、またその物語はときに理想化された部分もあるが、多分に美しく、見ごたえのあるものとなっている。本編上映後には、アジア(主にイラン)地域の介護医療問題を専門とする細谷幸子氏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)とトルコ地域研究(とくに家族の問題)に取り組んでおられる村上薫氏(アジア経済研究所)からコメントを得た。

細谷氏は、アジアの介護に関する先行研究や、看護や介護の現場での自身の観察や体験をもとに、アジアにおける介護問題の状況の概観を提示した。介護の「担い手」は、国によっても多様であり、家族が介護に従事する場合でも、複数の子供で支える場合と長男夫婦が介護の中心となる場合という、二つのパターンがあることが示された。家族外の者が介護を担う場合、家事労働者が雇用される場合と、専門家による介護サービスを受ける場合があるという。細谷氏の話から、介護をめぐる状況を「アジア」で括ることが決してできないが、そこで起こる問題や湧き上がる感情など、共通項も少なくないことが想起された。

村上氏によると、トルコ社会は現在、少子高齢化に向かいつつあるという。今のところ、高齢者の大半は家庭で過ごしており、「老人ホーム」に対する一般のイメージは決してよくない。それでも、公営や民営のホームは、西部の大都市を中心に次々と設立されている。東部にホームが圧倒的に少ないことについて、本映画では、東部アナトリア地域が、大家族からなる「部族社会」であり、「人情」と「年長者への敬意」がある場所であるがゆえと描いている。これについて、村上氏はこうした描写に的を射た部分がある一方で、そこに、失われつつあるものとして理想化された「モチーフとしての東部」の描写がある可能性を示唆した。

介護問題や高齢化社会の今後は、日本国内でも議論される主題である。55人を超す参加者を交えた質疑応答では、トルコの事情やトルコの人々の考え方に関する質問に加えて、日本における同問題に対するコメントも聞かれた。

秀逸な映画と鋭いコメントに加えて、ブレイクにはトルコ文化センター提供のトルコの軽食を賞味することができた。参加者は、まさに五感をフル動員して、「アジア」の一端を「知る」機会を得たのであった。

——————–
【日 時】
2016年7月22日(金) 17:00-20:30

【会 場】
東京大学 情報学環 福武ホール

【題 名】
アジアを知る:トルコ映画『白い天使』から

【テーマ】  終末
トルコ東部地域出身のアハメットは、イスタンブル上京後、偶然入り込んだ高齢者施設「安らぎの家」に身を寄せる。二人のスーツ姿の若者が彼を探す。拳銃を隠し、執拗に追跡する彼らは、実はアハメットの息子たちだった。

アジア西端の都市の介護施設を舞台に、そこに集う人びとの人生や日々の暮らしを描く本作を通して、本シンポジウムでは、家族のあり方、人生の終末、高齢化社会の未来などについて考えてみたい。

【プログラム】
司会:後藤絵美(東京大学 ASNET)

17:00 開会の言葉

17:10 第1部
映画紹介
ケマレッティン・ドールテキン氏(トルコ文化センター)
映画『白い天使』上映
監督 Director Mahsun Kirmizigül
トルコ語(日本語字幕) 120分, トルコ, 2007年

19:20 休憩(コーヒーブレイク)

19:40 第2部
コメント
村上薫氏(アジア経済研究所)
細谷幸子氏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

20:10 質疑応答

20:30 閉会の言葉

【使用言語 】
日本語

【参加費 】
無料

【定 員】
120名

【コメンテーター紹介】

ケマレッティン・ドールテキン氏(トルコ文化センター) Kemalettin Doğrutekin
トルコ語教育 トルコ・日本文化研究
トルコ文化センター副校長

村上薫氏(アジア経済研究所) MURAKAMI Kaoru
トルコ地域研究 家族・ジェンダー
主著 「愛情とお金のあいだ:トルコの都市における経済的貧困と女性の孤独」
椎野若菜編『シングルの人類学2 シングルのつなぐ縁』人文書院 2014年。

細谷幸子氏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)HOSOYA Sachiko
イラン地域研究 障害学
主著 『イスラームと慈善活動』ナカニシヤ書店 2011

【主 催】
東京大学日本・アジアに関する教育研究ネットワーク(ASNET)
トルコ文化センター

【共 催】
中東映画研究会
東京大学・東洋学研究情報センター・セミナー
東洋文化研究所
科研費「イスラーム・ジェンダー学構築のための基礎的総合的研究」(代表:長沢栄治)