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自著を語る

Social Capital Construction and Governance in Central Asia: Communities and NGOs in post-Soviet Uzbekistan (Politics and History in Central Asia)

Timur Dadabaev(編集),‎ Murod Ismailov(編集),‎ Yutaka Tsujinaka(編集)

ダダバエフ ティムール『Social Capital Construction and Governance in Central Asia』(『中央アジアにおけるソーシャル・キャピタル構築とガバナンス』)を語る

本書の目的は社会主義時代以降の中央アジアにおけるソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の構築過程とその諸問題を、ウズベキスタンの事例を通して理解することである。同時に、本書の主な分析対象は2016年9月に死亡したウズベキスタン初代大統領カリモフの時代であり、彼の政権下におけるソーシャル・キャピタルの構築の試みに焦点をあてる。

1991年のソビエト連邦崩壊以降のウズベキスタンにおける政治改革に関する評価は様々であり、研究者間で多様な議論を引き起こしている。一方で、初代大統領の貢献として、ウズベキスタンの政治的な安定維持と過激イスラーム思想の普及阻止があげられる一方、彼の政権への批判点として、国内のガバナンス問題、人権問題、横領問題などがあげられる。その意味で、独立後26年を経過しながら依然として長期的な安定性をもつ一方、国民を意識した政治制度が確立されていないことは、ウズベキスタンが抱える問題である。

同時に、初代大統領が構築しようとしたソーシャル・キャピタルモデルの分析が未だ十分に行われておらず、本書はまずこれまでのウズベキスタンにおける市民組織を取り上げ、これらの組織と国家の関係、権限の分け方、それらに関する多様な問題についての説明を試みる。本書の狙いは、これらの課題への結論を出すことではなく、むしろこれらの問題についての議論を呼びかけ、現地の視線と海外からの見方を融合させることにある。本書の各章における結論は暫定的なものであり、著者としてこれらが更なる研究のきっかけになればよいと思っている。本書は単にウズベキスタンの現状を把握することだけでなく、中央アジア・ウズベキスタンの事例を、ソーシャル・キャピタルの理論に位置づけ、日本の自治会との比較も試みている。これらを通して、中央アジアのソーシャル・キャピタルの実情をより広い観点から考えられるように工夫をしている。

ダダバエフ ティムール・辻中豊・その他編
Dadabaev, Timur, Ismailov Murod, Yutaka Tsujianak (eds.)
Social Capital Construction and Governance in Central Asia (NY: Palgrave Macmillan)
http://www.palgrave.com/gp/book/9781137522337